イェネー・フバイ

イェネー・フバイ（Jenő Hubay, 1858年 9月15日 - 1937年 3月12日）は、ハンガリーが生んだ傑出したヴァイオリニスト、作曲家、そして重要な音楽教育者です。ペシュト（現ブダペストの一部）で生まれ、ブダペストでその生涯を閉じました。ドイツ系の音楽一家に育ち、本名はオイゲン・フーバー（Eugen Húber）でしたが、二十歳頃からフランス語圏で活動する際に、ハンガリー語風の「イェネー・フバイ」という名前を好んで使うようになりました。

生涯と教育

フバイの音楽的才能は幼い頃から芽生えました。ヴァイオリンと音楽の基礎は、父であるカーロイ・フバイから学びました。父はハンガリー国立歌劇場のコンサートマスターを務めるとともに、ブダペスト音楽院の教授でもありました。フバイは11歳になるまでにヴィオッティの協奏曲を演奏し、公開デビューを果たしました。13歳からはベルリンに留学し、5年間にわたり、当時のヴァイオリン界の巨匠ヨーゼフ・ヨアヒムに師事しました。ヨアヒムの下で、彼の芸術性と技術は飛躍的に向上しました。

1878年には、フランツ・リストの助言を受けてパリでヴァイオリニストとしてデビューし、大成功を収めました。この時、会場に居合わせた高名なヴァイオリニスト、アンリ・ヴュータンと親交を結び、ヴュータンからも指導を受ける機会を得ました。国際的な名声を得たフバイは、1882年にブリュッセル音楽院のヴァイオリン科主任教授に招かれました。しかし、1886年には故郷ハンガリーへ帰国し、父の後任としてブダペスト音楽院の教授に就任しました。

教育者として

ブダペスト音楽院におけるフバイの教育活動は、ハンガリー国内外のヴァイオリン界に大きな影響を与えました。彼の「フバイ・スクール」からは、20世紀を代表する多くのヴァイオリニストや音楽家が巣立っています。主な門人としては、ティボール・ヴァルガ、ヨゼフ・シゲティ、エンドレ・ジェルトレルといった世界的ヴァイオリニストが挙げられます。また、指揮者として名を馳せたユージン・オーマンディや、ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団のコンサートマスターを務めたジェルジ・ガライもフバイの指導を受けています。さらに、バルトークの最初のヴァイオリン協奏曲を献呈されたシュテフィ・ゲイエルや、ラヴェルやバルトークなど多くの作曲家から作品を献呈されたダラーニ姉妹（イェリーとアディラ）など、才能ある女性ヴァイオリニストの育成にも貢献しました。

演奏と作曲

ヴァイオリニストとして、フバイはソリストとしても活躍しましたが、室内楽奏者としても重要な存在でした。ブリュッセル時代とブダペスト帰国後の二度にわたり、自身の弦楽四重奏団を結成しています。彼の演奏は同時代の音楽家たちから高く評価され、特にヴュータンやブラームスからは賞賛を得ています。愛器にはストラディヴァリウスを用いていました。

作曲家としてのフバイは非常に多作でした。これは、師であるヨアヒムがあまり多くの作品を残さなかったのとは対照的です。特に、4つのヴァイオリン協奏曲は彼の代表作として知られており、これらにはハンガリーの民族音楽、とりわけハンガリー・ジプシー音楽の要素が色濃く反映されています。一方、「そよ風」（Hejre Kati）のようなアンコールピースや小品では、メンデルスゾーンやシューマンといったドイツ・ロマン派音楽の優美で感傷的なスタイルが見られます。この特徴は、彼が室内楽でしばしば共演したチェリスト、ダヴィッド・ポッパーの作風とも共通する点です。また、フバイは師であるヴュータンが完成させることのできなかった最後のヴァイオリン協奏曲第7番の献呈を受け、その補筆・完成も行いました。

人物と評価

フバイは多面的な才能を持つ音楽家でしたが、指揮者としてはあまり評価が高くなかったことでも知られています。ゲオルグ・ショルティの自伝には、フバイのリハーサルでハープ奏者が合図を待っていた際に、「合図だと？私は指揮をしているのだ！」とフバイが答えたという逸話が紹介されており、当時の音楽家たちの間で彼の指揮ぶりについての率直な評価があったことを示唆しています。

イェネー・フバイは、ハンガリーの音楽史において、ヴァイオリン演奏、作曲、そして教育の各分野で重要な足跡を残した人物として記憶されています。

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