イエン・チリト

イエン・チリトの生涯と政治的役割

イエン・チリト（Ieng Thirith、1932年3月10日 - 2015年8月22日）は、カンボジアの政治界において重要な役割を果たした女性政治家である。彼女はクメール・ルージュの指導者の一人であり、民主カンプチア政権で社会問題相を務めたことから、その業績と責任について多くの議論がなされてきた。

早年期と教育

イエン・チリトは、フランスの保護国下にあったカンボジアのバタンバン州で生まれた。彼女は上流家庭に生まれ、父親は裁判官であった。姉にはポル・ポトの初代の妻、キュー・ポナリーがいる。イエン家は王族とも親しい関係を持ち、当時のカンボジアの上流社会の中で名を馳せていた。

彼女は、カンボジアの最高学府の一つであるリセ・シソワットを卒業した後、奨学金を得てパリに留学し、英文学、特にシェークスピアの研究に取り組んだ。学生時代にイエン・サリと婚約し、1951年にパリで結婚した。

教育者としてのキャリア

帰国後、イエン・チリトはカンボジア初の英語教育校であるクメール英国高校を設立し、校長として教育に貢献した。しかし、1963年頃に左翼に対する弾圧が強化され、彼女の職業生活は暗転する。夫のイエン・サリが地下に身を隠す中で、チリト自身も1965年には追随せざるを得なかった。

クメール・ルージュ政権下での活動

内戦を経て、イエン・チリトは1973年にカンプチア王国民族連合政府の人民教育・青年相に任命された。1976年4月に民主カンプチア政権が成立すると、彼女はポル・ポト内閣で社会問題相として重要な位置を占めた。この時期、政権による大規模な大量虐殺が行われたことから、彼女もその政治責任を問われることとなった。

逮捕と裁判

2007年11月、イエン・チリトは夫と共に逮捕され、カンボジア特別法廷で刑事責任を追及されることになった。しかし、彼女は認知症を理由に2012年9月に訴追されずに釈放された。

晩年

イエン・チリトは2015年にカンボジアで逝去した。83歳の生涯を閉じた彼女の人生は、カンボジアの政治の暗い歴史と切り離すことができない。このように、彼女の存在は今なお議論を呼ぶテーマとなっている。

参考文献

• - デービッド・P・チャンドラー『ポル・ポト伝』めこん、1994年。
• - 山田寛『ポル・ポト＜革命＞史－虐殺と破壊の四年間』講談社新書メチエ、2004年。

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