イカリア島

イカリア島

イカリア島（ギリシャ語: Ικαρία）は、ギリシャ北エーゲ海の東部、サモス島の南西約19kmに位置する島です。この島の名は、ギリシャ神話において、父ダイダロスと共に脱出を図ったイカロスが、太陽に近づきすぎたために蝋の翼が溶け、この付近の海に墜落したという伝説に由来するとされています。島の行政中心地はアイオス・キリコスで、2021年の統計によると島全体の人口は約8,843人です。

歴史的変遷

イカリア島の歴史は古く、紀元前750年頃には、小アジア沿岸部にあった古代都市ミレトスからの入植が始まったと考えられています。中世から近代にかけて、この島は地中海東部の様々な勢力によって支配されることになります。14世紀には、海洋貿易で栄えたイタリアの都市国家、ジェノヴァ共和国の統治下に置かれました。15世紀初頭には、地中海の東部を拠点としていた聖ヨハネ騎士団による支配も経験しましたが、これは比較的短い期間で終わりました。その後、イカリア島はオスマン帝国の支配下に組み込まれ、その統治が長く続きました。

19世紀にギリシャ本土で独立戦争が勃発し、多くの島々がギリシャ王国に統合されていく中で、イカリア島でもオスマン帝国からの独立とギリシャとの統一を求める運動が高まりました。しかし、こうした機運にもかかわらず、島は依然としてオスマン帝国の支配下に留まります。転機が訪れたのは、第一次バルカン戦争が始まる直前の1912年7月です。島民はオスマン帝国からの独立を宣言し、自らを「イカリア自由国」と称する国家を樹立しました。この短命ながらも独立した政体は、独自の軍隊を組織し、国旗や国歌を制定し、さらには郵便切手を発行するなど、独立国家としての体裁を整えていました。しかし、同年11月にバルカン戦争が勃発すると、イカリア自由国は長年の希望であったギリシャ王国への編入を果たし、その歴史的役割を終えました。

第二次世界大戦後、ギリシャでは内戦が起こり、この混乱期にイカリア島は政治犯、特に共産主義者や左派系の活動家たちの流刑地として使用されました。およそ13,000人にも及ぶ人々がこの島に送られ、その厳しい境遇を経験しました。この大量の政治犯の存在と彼らが島民にもたらした思想は、イカリア島の社会に深く根を下ろし、以降、島民の間で共産主義や左翼思想に対して同情的な感情が強まったと言われています。

近現代の発展

戦後しばらくの間、イカリア島は貧困に苦しみ、より良い生活を求めて多くの島民が海外、特にアメリカ合衆国へと移住しました。しかし、1960年代以降、ギリシャ政府が観光産業の振興に力を入れ始めると、イカリア島でもインフラ整備が進められ、観光への投資が行われるようになりました。これにより、島の経済状況は徐々に改善されていきます。

今日、イカリア島は、そのユニークな歴史的背景、特に政治的な傾向や、島民の長寿（世界の長寿地域「ブルーゾーン」の一つとして知られる）といった特徴で注目を集めています。過去の困難な時代を経て育まれた独自の文化と歴史は、この島を他のギリシャの島々とは異なる魅力的な場所としています。

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