イギリスの医療

イギリスの医療制度：国民皆保険と課題

イギリスの医療制度は、国民保健サービス（NHS）を中核としたユニバーサルヘルスケアシステムです。税金を財源とする公費負担医療で、国民にほぼ無料の医療サービスを提供しています。WHOの評価では、ヨーロッパ諸国の中でも上位に位置づけられており、国民の健康状態も良好です。平均寿命はOECD平均を上回り、国民の健康への自己評価も高い水準にあります。しかし、この制度には、地域格差や財政問題、医療サービスの待機時間の長さといった課題も存在します。

NHSと地方分権

NHSはイングランド、スコットランド、ウェールズ、北アイルランドの4地域で運営され、それぞれ独自の運営組織と政策を持っています。中央政府の保健省が3年ごとにフレームワークと予算を策定しますが、各地域は独自の医療システムを構築し、医療サービスの提供、質、費用などにおいて差異が見られます。

医療サービスの提供体制

NHSでは、プライマリケアは登録した総合診療医（GP）が担当します。GPはゲートキーパーとして、二次医療（病院）への紹介状を発行します。二次医療は専門医療、精神疾患ケア、救急医療などを提供し、三次医療は大学病院などが担います。GPは開業医が大半を占め、診療報酬制度は基本サービスの人頭払い、追加・高度サービスの出来高払いを組み合わせた複雑な仕組みです。

民間医療機関も存在し、NHSと同様の医療を提供しています。民間医療保険への加入率は約12%で、加入者は主に保険料を自己負担または雇用主負担で民間医療機関を利用します。しかし、民間保険の適用範囲は限定的です。

医療の質と費用管理

地域間の医療の質の差を検証するため、NHS RightCareセクションがNHS Atlasとして情報を公開しています。また、医療のアウトカム向上のためのNHS Improving Quality (NHS IQ)も設立されました。

医療費の抑制策として、国家会計院によるNHSの会計監査が実施されています。病院の駐車料金はスコットランドとウェールズでは廃止されましたが、イングランドでは多くの病院で徴収されています。薬剤処方料もイングランドでは原則として徴収されますが、年齢、所得、疾病などの条件を満たす場合は免除されます。スコットランド、ウェールズ、北アイルランドでは薬剤処方料は無料です。

医療技術評価と医薬品

イングランドとウェールズでは、国立医療技術評価機構（NICE）が診療ガイドラインを策定し、治療法と報酬の支払いを規定しています。スコットランドではScottish Medicines Consortiumが同様の役割を果たしています。

医薬品は医薬品・医療製品規制庁（MHRA）が承認を行い、欧州医薬品庁（EMA）の承認済みの医薬品はMHRAの別途承認が不要です。医薬分業が徹底されており、薬局は英国薬剤師協議会（GPhC）に登録する必要があります。GPhC登録済みのインターネット薬局は、ウェブサイトに所定のロゴを掲載できます。

医療経済と財政

イギリスの医療経済は、医学・医療技術の進歩、平均寿命の上昇、GDPの増大などに伴い、毎年増加しています。長らく問題となっていた医療サービスの待機時間については、労働党政権下で改善が進み、GP受診は2日以内、救急医療は4時間以内を目標としています。また、待機時間が長くなった場合、民間医療機関での公費診療も可能となりました。

医学教育と医師資格

イギリスで医師として働くには、英国医学協議会（GMC）への登録が必要です。GMC認定医科大学を卒業し、2年間の臨床研修（Foundation programme）を修了することで医師資格が得られます。その後、総合診療医（GP）や専門医への道に進みます。

まとめ

イギリスの医療制度は、国民皆保険を基本としたユニバーサルヘルスケアシステムであり、国民の健康状態は良好です。しかし、地域差、財政問題、待機時間の長さなどの課題も存在します。NHSの継続的な改革と、効率的な費用管理が今後の課題となります。

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