イギリス式庭園

イギリス式庭園：自然と芸術の融合

イギリス式庭園、別名イングリッシュガーデンは、18世紀のイギリスで隆盛を極めた造園様式です。フランス式庭園のような幾何学的な厳格さとは対照的に、自然の風景を模倣した、自由で有機的なデザインが特徴です。起伏のある地形、曲線を描く小道、そして巧みに配置された樹木や花々が、絵画のように美しい景観を作り出します。

自然美への憧憬：その誕生と発展

イギリス式庭園の誕生は、17世紀後半から18世紀にかけての、自然への関心の高まりと深く関連しています。当時、イギリスの上流階級の間では、クロード・ロランやニコラ・プッサンといった画家による風景画が流行しており、これらの絵画が、庭園デザインに大きな影響を与えました。貴族たちは、絵画の中に描かれた理想的な風景を、自らの庭園に再現しようと試みたのです。

この流れの中で、アントニー・アシュリー＝クーパーやジョセフ・アディソンといった知識人たちが、フランス式庭園などの形式主義を批判し、自然の美を賛美する文章を発表しました。彼らは、人工的な美しさよりも、自然のありのままの姿にこそ真の美があるとの考えを主張し、イギリス式庭園の思想的基盤を築きました。

イギリス式庭園の主要な特徴

イギリス式庭園の大きな特徴は、以下の通りです。

非対称性: 厳格な幾何学模様ではなく、自然な曲線や不規則な配置が用いられます。
自然の模倣: 丘陵や谷、池、森といった自然の地形や要素を取り入れ、自然風景を再現します。
視覚的効果: 遠近法や借景などを用いて、奥行きのある美しい風景を創り出します。
寓意と象徴: 庭園全体が、特定のテーマや物語を表現する寓意として設計されることもありました。
異国情緒: 中国風の建物や、エキゾチックな植物を配置する例もあります。

代表的な庭園と造園家たち

イギリス式庭園の発展には、多くの造園家が貢献しました。

ウィリアム・ケント: 18世紀前半の代表的な造園家。ラウシャム・ハウス庭園など、数々の名園を設計しました。
ランスロット・”ケイパビリティ”・ブラウン: 18世紀後半の巨匠。ストウ庭園やブレナム宮殿庭園など、数多くの庭園を手がけ、イギリス式庭園の黄金時代を築きました。彼のデザインは、自然な地形を生かした滑らかな曲線と、広大な空間が特徴です。
ガートルード・ジーキル: 19世紀後半から20世紀初頭にかけて活躍した女性園芸家。自然な植栽や色彩計画を重視し、小規模な庭園のデザインに大きな影響を与えました。

イギリス式庭園の世界的展開と日本の受容

イギリス式庭園は、イギリス国内にとどまらず、世界各国に広まりました。フランス、ドイツをはじめ、イギリスの植民地や影響を受けた地域では、多くのイギリス式庭園が造られています。

日本でも、明治時代以降、西洋庭園の様式としてイギリス式庭園が導入されました。初期には、フランス式庭園や日本庭園の要素と融合した折衷的なスタイルが多く見られましたが、近年では、本格的なイギリス風景式庭園を模倣した大規模な庭園も増加しています。

家庭園芸における「イングリッシュガーデン」

日本における「イングリッシュガーデン」は、伝統的なイギリス風景式庭園を小型化したもので、個人住宅の庭やベランダなどでも造られます。バラなどの花壇や、レンガや石などの西洋風の素材を用いた装飾が特徴です。

まとめ

イギリス式庭園は、自然への深い愛情と、芸術的なセンスが融合した、魅力的な庭園様式です。その歴史と特徴、そして世界各地への広がりを理解することで、庭園を見る目がより深まることでしょう。

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