クロード・ロラン

クロード・ロラン：理想風景の巨匠

クロード・ロラン（1600年頃 - 1682年）。本名クロード・ジュレ。フランス・バロック期を代表する風景画家です。ロレーヌ地方出身で、生涯の大半をローマで過ごしました。同時代のニコラ・プッサンと並び称される巨匠であり、彼の作品は、理想的な風景描写によって高く評価されています。代表作に『海港　シバの女王の上陸』などがあり、日本国内の美術館にも数多くの作品が収蔵されています。

生涯：貧しい出自からローマでの成功へ

1604年か1605年、ロレーヌ地方の貧しい家庭に生まれたクロード・ロランは、12歳で孤児となります。兄と共に木彫りの職人として働きながら、ローマ、そしてナポリへと移り住み、画家としての道を歩み始めます。ナポリではゴフレード・ウァルスに師事し、その後ローマに戻ってアゴスティーノ・タッシに師事しました。

ローマでの生活は決して平坦ではありませんでした。様々な困難を経験しながらも、イタリア各地を旅し、技術を磨いていきました。ロレーヌ公の宮廷[[画家]]のもとで助手として働く時期もありました。その経験は、後の彼の作品に反映されていると考えられます。

円熟期：風景画の開拓者

1627年、ローマに戻ったロランは、貴族の庇護を受け、本格的に画家としての活動を展開。特に1637年頃からは、風景画家、海景画家として名声を高めていきます。プッサンとは友人として交流があり、共にカンパーニャ地方を旅した記録も残されています。

しかし、プッサンとロランの風景画に対するアプローチには大きな違いがありました。プッサンの風景画は、人物画の背景としての役割を果たすことが多かったのに対し、ロランの絵画では、陸地、海、空といった自然が主題となっています。人物はあくまで脇役です。人物画は他の画家を依頼することが多く、その中にはジャック・クルトワやフィリッポ・ラウリといった著名な画家も含まれていました。ロラン自身は、絵の購入者に対して「風景は売ったが、人物はサービスだ」と語っていたという逸話が残されています。

自身の作品の複製を正確に伝えるため、ロランは、各作品を精緻なドローイングで複製し、『真実の書（Liber Veritatis）』としてまとめました。この作品集は、後の風景画家たちに大きな影響を与えました。

晩年は痛風で苦しみ、1682年にローマで亡くなりました。莫大な遺産は、甥や養子の娘に相続されました。

評価と遺産：風景画という新境地

17世紀のローマにおいて、風景画は真剣に扱われる画題ではありませんでした。宗教画や神話画が主流であり、風景画は静物画や風俗画と同様に、道徳的な深みがないと見なされていたのです。

そんな中で、ロランは風景を主題とした絵画を制作し、画壇に新しい視点を提示しました。彼の作品は、自然の美しさを忠実に表現するだけでなく、理想的な風景を描き出すことに成功しました。

ヨアヒム・フォン・ザンドラルトやフィリッポ・バルディヌッチといった美術史家による記録が残されています。また、19世紀のイギリスの風景画家ジョン・コンスタブルは、ロランを「世界が今まで目にした最も完璧な風景画家」と絶賛し、その作品を高く評価しました。

クロード・ロランの作品は、後の多くの画家たちに影響を与え、風景画というジャンルを確立する上で大きな役割を果たしました。彼の理想風景は、現代においても人々の心を捉え続けています。

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