イクツヒコネ

イクツヒコネ（活津日子根、活津彦根）

日本神話に登場する神であり、皇祖神である天照大神（アマテラスオオミカミ）と、その弟神である素戔嗚尊（スサノオノミコト）が、高天原（タカマガハラ）において互いの清き心を証明するために行った重要な神事である「誓約（うけい）」によって誕生した五柱の男神の一柱です。

神話における記述

『古事記』においては「活津日子根命（イクツヒコネノミコト）」という名で記されており、『日本書紀』においては「活津彦根命」という表記が見られます。これらの記録から、イクツヒコネが日本の最も古い歴史書、神話集に確かな名前を持つ神であることがわかります。

誕生の経緯

イクツヒコネ命は、天照大神と素戔嗚尊の誓約の際に生まれました。この誓約では、それぞれの持ち物から子神が誕生しましたが、イクツヒコネ命を含む五柱の男神は、天照大神が左の御手（おんて）に巻いていた八尺瓊勾玉（やさかにのまがたま）が変化して生まれたと伝えられています。これは、天照大神の持つ神聖な宝玉から生まれた神であり、その出自が非常に尊いものであることを示唆しています。

関連する伝承と神社

イクツヒコネ命に関しては、その神格や具体的な事績についての詳しい記述は記紀には多くありませんが、いくつかの神社や地名との関連が伝えられています。

江戸時代後期の国学者、出口延経の没後に、外宮神官の桑原弘雄とその子弘世によって整理・編纂され、元文2年（1737年）に完成した『神名帳考証』という書物では、かつて大和国の忍坂（現在の奈良県桜井市周辺）および摂津国の住吉（現在の大阪市住吉区周辺）に鎮座していた生根神社の祭神であったことが考証されています。『延喜式神名帳』に記載された神社の祭神を研究したこの書物によれば、イクツヒコネ命が生根神社の創建に関わる神であった可能性が示唆されています。ただし、これらの生根神社の現在の主祭神は、少彦名命（スクナビコナノミコト）などの他の神に変更されています。

また、大阪の古社として知られる生國魂神社の祭神である生島神（いくしまのかみ）・足島神（たるしまのかみ）と、イクツヒコネ命とが同神であると見なす説も存在します。これは、神名の類似性や鎮座地の伝承などに基づくものと考えられます。

さらに、丹波国（現在の京都府北部から兵庫県北東部にかけて）の天田郡に鎮座する生野神社や、但馬国（現在の兵庫県北部）の養父郡に位置する伊久刀神社など、いくつかの式内社（『延喜式神名帳』に記載された神社）の祭神として、その名が挙げられている事例もあります。

滋賀県に位置する著名な都市、彦根市の地名も、イクツヒコネ命の名に由来するという説が古くから語られています。神名と地名の類似性から生まれた伝承と考えられ、地域との深いつながりを示唆しています。

現在イクツヒコネ命を祀る神社

イクツヒコネ命を主祭神または配祀神として祀っている主な神社として、以下の社が挙げられます。

彦根神社（滋賀県彦根市）：滋賀県の彦根市に鎮座する神社です。
活津彦根神社（滋賀県近江八幡市安土町）：滋賀県の近江八幡市安土町に鎮座する神社です。
* 四王子神社（徳島県徳島市八万町）：徳島県の徳島市に鎮座する神社で、誓約で生まれた五男神を祀ると伝えられています。

イクツヒコネ命は、記紀神話において誓約という重要な場面に登場する神でありながら、その具体的な事績はあまり語られていません。しかし、各地の伝承や『神名帳考証』のような研究を通じて、古代より信仰の対象とされ、複数の神社との関わりや地名由来説など、その存在が日本の神道信仰の奥深さを示す一端として垣間見えます。

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