神名帳考証

『神名帳考証』（じんみょうちょうこうしょう）は、江戸時代中期に成立した、神社研究における重要な古典籍です。この書物は、『延喜式神名帳』に記載された神社、いわゆる式内社について、その神名や鎮座地を詳細に考証したもので、全8巻から構成されています。

著者は、伊勢の神官である出口（度会）延経です。彼は、式内社の多くが神名や鎮座地を特定できない現状を深く憂慮し、その解明に生涯を捧げました。寛文年間（17世紀中後葉）には、伊勢神宮の大宮司であった大中臣精長や、外宮の祠官であった父延佳、岩出末清、中西信慶らによる研究『神名帳傍注』を基盤とし、30年にも及ぶ長年の歳月をかけて研究を重ねました。

しかし、延経は正徳4年（1714年）に80歳で亡くなり、その著作は未完のまま残されました。その後、同じく外宮祠官であった桑原弘雄、弘世父子が、延経の猶子であった荒木田武明の手元に残された遺稿を整理し、錯簡や重複を修正して浄書しました。そして、享保18年（1733年）に弘雄の序文と弘世の跋文を付して、ようやく完成に至りました。弘世の跋文によれば、この浄書作業は前年の享保17年7月8日に始まり、18年3月27日に完了したとされています。

『神名帳考証』は、全8巻で構成されており、その内容は以下の通りです。

巻1：宮中、京中、山城国
巻2：大和、河内、和泉、摂津の畿内4ヶ国
巻3：伊賀、伊勢、志摩、尾張の東海道4ヶ国
巻4：参河から常陸までの東海道11ヶ国
巻5：東山道8ヶ国
巻6：北陸道7ヶ国
巻7：山陰道8ヶ国
巻8：山陽、南海、西海の3道23ヶ国と壱岐、対馬の2島

このように、『神名帳考証』は、全国の神社を網羅的に調査し、詳細な考証を加えた、非常に貴重な資料です。

また、本書の後継となる研究書もいくつか存在します。

『伊勢国神名帳考証』：松木智彦が『神名帳考証』から伊勢国部分を抄録したもので、正徳3年（1713年）と享保7年（1722年）の2種があります。
『神名帳考証再考』：橋村正身が『伊勢国神名帳考証』を再考し、門人に口授したものを明和6年（1769年）に筆録したものです。
『神名帳考証撿録』：度会延賢が『神名帳考証』に書き加えを施したものです。
『神名帳考証』：伴信友が『神名帳考証撿録』を元に著したもので、文化10年（1813年）に完成しました。

これらの後継書からも、『神名帳考証』が後の神社研究に大きな影響を与えたことがわかります。

『神名帳考証』は、現代においても、神社史研究において欠かせない基本資料であり、その学術的価値は非常に高いと言えるでしょう。

参考文献

土岐昌訓「神名帳考証」（『神道史大辞典』、吉川弘文館、平成16年）
山路興造「神名帳考証 解題」（『日本庶民生活史料集成』第26巻 神社縁起、三一書房、昭和58年 所収）
『神道大辞典』（縮刷復刻版）、臨川書店、昭和44年

関連事項

神名帳考証土代

外部リンク

* 『神名帳考証』 - 新日本古典籍総合データベース

もう一度検索