イグアナ科

イグアナ科（Iguanidae）

イグアナ科（Iguanidae）は、爬虫綱有鱗目に分類される動物群で、別名でタテガミトカゲ科や立髪竜科とも称されます。この科の模式属はグリーンイグアナ属（Iguana）です。近年における分子系統学的な研究の進展に伴い、かつてイグアナ科の下位亜科とされていた多くのグループがそれぞれ独立した科として再分類される傾向にあります。そのため、旧来の広範な「イグアナ科」という名称で呼ばれていた範囲は、現在の分類体系では両面歯類（Pleurodonta）と呼ばれるより大きなグループに相当すると考えられています。

分布

主に新世界、すなわち北アメリカ大陸、南アメリカ大陸、および西インド諸島を中心に広く分布しています。また、太平洋の島々にも生息域を広げており、エクアドル領のガラパゴス諸島やフィジー諸島にも固有種が見られます。さらに、遠く離れたアフリカ大陸の東方沖にあるマダガスカル島にも一部のグループが分布しています。

日本列島には在来のイグアナ科の仲間は生息していませんが、ペットとして持ち込まれたグリーンアノールが小笠原諸島で野生化し、外来生物として定着しています。

形態

イグアナ科（広義）に含まれる種の形態は非常に多様です。最大級の種では全長が2メートル近くに達するものも知られていますが、一方で全長がわずか数センチメートルにしかならない小型種も存在し、その大きさには大きな幅があります。

また、収斂進化の好例として、生息環境が類似しているアガマ科やカメレオン科といった近縁ではない他のトカゲのグループと、似たような体つきや特徴を持つ種が見られることがあります。これは、特定の環境に適応するために、異なる系統の生物が独立して同様の形質を獲得した結果と考えられています。

生態

イグアナ科の仲間は、その多様な分布域を反映して、砂漠のような乾燥地帯から湿潤な熱帯雨林まで、極めて幅広い環境に適応しています。生活様式も様々で、主に地上で活動する種もいれば、樹上で生活する種もいます。

特にユニークな適応例として、ガラパゴス諸島に生息するウミイグアナが挙げられます。この種は、陸上での食料が限られた海洋環境において、潜水能力を発達させ、海中の海藻を主な餌として利用するという、爬虫類としては非常に珍しい生態を持っています。

食性も種によって異なり、昆虫などの動物質を食べる種もいますが、グリーンイグアナに代表されるような大型種では、植物の葉や果実などを主食とする植物食の傾向が強い種が多く見られます。

繁殖形態についても多様性が見られ、多くの種は卵を産む卵生ですが、一部には母親の体内で卵を孵化させて子を産む卵胎生の種も知られています。

分類

旧来の分類では8つの亜科に分けられていましたが、最新の分類体系では、これらの亜科の多くが独立した「科」として扱われています。さらに、独立した科とされたグループの中にも、ヨウガントカゲ科のように、さらに複数の科に細分化されるべきだという説も提唱されています。

旧亜科／現行科の例としては、以下のようなグループが挙げられます（全てではありません）。

バシリスク科（Corytophanidae）: バシリスク属（Basiliscus）など。
クビワトカゲ科（Crotaphytidae）: クビワトカゲ属（Crotaphytus）、ヒョウトカゲ属（Gambelia）など。
モリイグアナ科（Hoplocercidae）: Enyalioides属など。
イグアナ科（Iguanidae）: ウミイグアナ属（Amblyrhynchus）、オカイグアナ属（Conolophus）、トゲオイグアナ属（Ctenosaura）、ツチイグアナ属（Cyclura）、サバクイグアナ属（Dipsosaurus）、グリーンイグアナ属（Iguana）、チャクワラ属（Sauromalus）など。このグループが現行の狭義のイグアナ科に当たります。
マラガシートカゲ科（Oplurinae）: ハユルミトカゲ属（Chalarodon）、ブキオトカゲ属（Oplurus）など。マダガスカルに分布します。
ツノトカゲ科（Phrynosomatidae）: ツノトカゲ属（Phrynosoma）、ハリトカゲ属（Sceloporus）、ユタトカゲ属（Uta）など。主に北米に分布します。
アノールトカゲ科（Polychrotidae）: アノールトカゲ属（Anolis）、カメレオンモドキ属（Chamaeleolis）など。
ヨウガントカゲ科（Tropiduridae）: ゼンマイトカゲ属（Leiocephalus）、ヤマイグアナ属（Liolaemus）、マユダカトカゲ属（Uranoscodon）など。

人間との関係

イグアナ科（広義）の中には、人間によって利用される種も存在します。グリーンイグアナやツギオトゲオイグアナといった大型種は、その生息地の一部で食用とされており、特にグリーンイグアナは食用目的で養殖も行われています。

また、多くの種がその特徴的な姿からペットとして人気があり、世界中で飼育・流通しています。日本にも様々な種類が輸入され、飼育されています。しかし、ペットとして輸入された種が逸出し、日本の生態系に影響を与える問題も発生しており、グリーンアノールとブラウンアノールは外来生物法に基づき「特定外来生物」に指定されています。これにより、これらの種の飼育、輸入、野外への放出などが厳しく規制されています。さらに、近縁であるアノールトカゲ属およびNorops属は「未判定外来生物」に指定されており、事実上、これらの属に属する種の新たな輸入は困難な状況となっています。

参考文献

• - 千石正一監修 長坂拓也編 『爬虫類・両生類800図鑑』、ピーシーズ、2002年
• - 『小学館の図鑑NEO　両生・はちゅう類』、小学館、2004年
• - 海老沼剛 『爬虫・両生類ビジュアルガイド　トカゲ1 アガマ科&イグアナ科』、誠文堂新光社、2004年

もう一度検索