イグダマノサウルス

イグダマノサウルス：硬い獲物を砕くモササウルス

イグダマノサウルス（Igdamanosaurus）は、白亜紀後期に生息したモササウルス科の絶滅した属で、「イグダマンのトカゲ」を意味します。モササウルス亜科グロビデンス族に分類され、他のグロビデンス族のメンバーと同様に、特徴的な丸いノブ状の歯を持っていました。この独特な歯の形状は、硬い殻を持つ獲物を食べるという特殊な食性を物語っています。

生息環境と発見

イグダマノサウルスは、マーストリヒチアン期（約7200万～6600万年前）のアフリカの海洋環境に生息していました。現在知られている種は、Igdamanosaurus aegyptiacus の1種のみです。この種の化石は、エジプトの Duwi 累層、モロッコの Ouled 累層、ニジェールの Dukamaje 累層といった場所から発見されています。これらの発見場所は、当時のアフリカが浅い海に覆われていたことを示唆しています。

形態と特徴

イグダマノサウルスは比較的小型のモササウルス科で、大きさは同じグロビデンス族のカリノデンスとほぼ同じ程度でした。特筆すべきはその歯で、丸みを帯びた鈍い形状をしており、これは他のモササウルス類が主に捕食していた魚類や一般的な爬虫類ではなく、軟体動物やウミガメのような甲殻を持つ獲物を砕くのに適応した結果と考えられます。

タイプ標本 BMNH R11898 は断片的であり、保存状態の悪い顎の断片や、ほぼ完全な湾曲した2本の歯、3本の歯根、そしていくつかの歯の断片が含まれています。これらの化石は、同一の個体のものである可能性が高いとされています。

歯骨は頑丈で、グロビデンスやプログナトドンといった他のモササウルス類に見られるような、重厚で頑強な形状をしています。また、歯骨の内側には浅い窪みがあり、これは板状骨を受け入れるための溝であると考えられています。

歯の特徴

保存されている7本の歯は、前後方向に大きさを増しており、ただし、最も後ろの歯は一つ手前の歯よりもやや小さいです。歯はほぼ真っ直ぐで、幅広な円錐形をしており、先端は丸みを帯びてドーム状です。断面は円形に近く、くびれはありません。歯冠には微細な平行な筋が走り、これは歯全体の65%から75%を占めています。歯の大きさは歯骨内でほぼ一定で、最大のものは高さ約27ミリメートル、幅22ミリメートルに達します。

分類上の議論

イグダマノサウルスは、当初グロビデンス・エジプティアクスとしてZdansky (1935) によって命名されましたが、Lingham-Soliar (1991) によって新属として独立し、発見地近くの村の名前にちなんでイグダマノサウルスと名付けられました。歯の適応はグロビデンスに類似していますが、イグダマノサウルスは下顎神経の出口として、歯骨の下側面に非常に小さな孔を持っている点で、グロビデンス・アラバマエンシスに似ています。Lingham-Soliarは、イグダマノサウルスの歯の垂直方向の筋に着目し、クリダステス型の祖先ではなく、プラテカルプス型の祖先から進化した、完全に新しいモササウルス科の属であると主張しました。そのため、プリオプラテカルプス亜科に分類すべきであると主張しました。

しかし、その後の研究で、モササウルス亜科内にイグダマノサウルスを配置する系統解析により、グロビデンス族に分類され、グロビデンスやカリノデンスに近縁であることが示されました。

まとめ

イグダマノサウルスは、白亜紀の海洋生態系において、硬い殻を持つ獲物を専門に捕食していた特殊なモササウルスです。その特徴的な歯の形状や、発見された化石の場所から、当時のアフリカの海洋環境における生態系の一端を垣間見ることができます。分類上の議論は残るものの、イグダマノサウルスはモササウルス科の進化史における重要な存在であり、その解明は古代海洋生態系の理解を深める上で不可欠です。

もう一度検索