クリダステス

クリダステス

クリダステス（学名: Clidastes）は、モササウルス科に属する絶滅した海生トカゲの属です。モササウルスやプログナトドンといった属とともにモササウルス亜科に分類され、アメリカ合衆国の後期[[白亜紀]]コニアシアンからカンパニアンにかけての地層から化石が発見されています。

語源

属名の「クリダステス」は、ギリシャ語の「鍵」を意味するκλειδί（kleidí）に由来し、「閉じた脊椎」を意味します。これは、脊椎の突起が頭骨の近位部を固定し、遊泳時の安定性と強度を高めていたことに因んでいます。

特徴

クリダステスは、初期のヒドロペダル（水かき足）を持つモササウルス科爬虫類であり、ティロサウルスやプラテカルプスといった初期の属と共に、初期の海洋捕食動物の形態を代表します。彼らは浅海に生息し、頭足類や魚類などの小型脊椎動物を捕食する機敏な遊泳動物であったと考えられています。

形態

クリダステスは、モササウルス科の中では比較的小型で、平均的な全長は2 - 4メートル、最大でも6.2メートル程度です。脊椎の突起により軸骨格の近位部が固定され、遊泳時の安定性と強度を高めていました。椎骨は固定されているものの、生きていた頃には水平方向の可動域が広く、浅海での高度な遊泳を可能にしていたと推測されています。さらに、尾椎と背骨全体の強化は、遊泳に役立つ筋肉の付着を可能にしました。

骨格の特徴

クリダステスは、以下の特徴を持つことが研究により明らかになっています。

前上顎骨には小さな吻が突出するか、または存在しない。
上顎骨歯は14 - 18本。
前前頭骨は外鼻孔の後外側境界を形成し、幅広の三角筋稜が上眼窩翼から側方へ突出する。
前前頭骨と後眼窩前頭骨が眼窩の上で広く分かれる。
前頭骨の側方縁は直線に近く、前方で収束し、中央の背側隆起は弱い。
後眼窩前頭骨の頬骨への腹側突起が、後眼窩前頭骨の広く露出した背側表面と合流する。
頬骨には腹後側突起が存在しない。
頭頂孔は小さく、完全に頭頂骨の中に位置する。
背側頭頂骨表面の縁は互いに平行で、分岐した懸垂状の枝の後側基部へ頭蓋の正中線が伸びる。
方形骨の翼状突起は縮んで内側へ向かい、頭頂骨の枝に触れる。
Otosphenoidalの突起は前耳骨に覆われ、第VII脳神経の外側へ存在する。
翼状骨歯は14 - 16本。
方形骨の上あぶみ骨突起はやや大きく、鼓膜弓は非常に厚い。
あぶみ骨の窪みは楕円形をなす。
歯骨歯は16 - 18本。
第1歯骨歯の前方に歯骨の小さな突起が存在する。
内側翼が角骨もしくは冠顎骨に触れる。
上角骨の背側縁は非常に薄い薄層をなし、冠顎骨の後側表面の高い位置に前方へ生じる骨に存在する。
関節後突起は三角形で、重厚な背側突起が備わる。
下顎の歯の多くは縮んでおり、二股に分かれ、表面は滑らかなエナメル質である。

ただし、これらの特徴は、主にC. propythonとC. liodontusに基づいており、C. sternbergii（後のエオナタトル）やC. iguanavusには必ずしも当てはまらない点に注意が必要です。

歯の構造と生え変わり

モササウルス科の歯は、一般的に尖って湾曲した歯冠を持ち、エナメル質表面は滑らかです。歯冠は舌側表面と唇側表面に分かれ、外側表面はエナメル質、内側は象牙質で構成されています。クリダステスを含むモササウルス科は、垂直に歯が生え変わる特徴を持ち、これは他の有鱗目（ヘビ）とは異なる点です。ヘビの歯は水平に傾斜した配置で生え変わりますが、モササウルス科は歯の収容のための窪みを持ち、歯が回転して生え変わる点が特徴的です。クリダステスなどモササウルス科の爬虫類では、機能的な歯が失われると、新しい歯の肉茎が成長して置き換わります。歯は固着しており、歯周靭帯による繊維質の歯の接触とは異なる点が、哺乳類や主竜類との違いです。

産出地

クリダステスの化石は、主にアメリカ合衆国の海成層から産出します。過去にはスウェーデン、ドイツ、ロシア、メキシコ、ヨルダンからも発見例がありますが、これらの標本は断片的で、クリダステス固有の特徴に欠けるため、その分類には疑問が呈されています。

発見

Clidastes propythonの最初の標本は、1869年にエドワード・ドリンカー・コープによってアラバマ州で発見されました。この標本は幼体のものですが、モササウルス科の中でも最も完全で保存状態が良いものでした。1918年には、チャールズ・H・スタンバーグとその息子がカンザス州で追加の化石を発見し、その尾椎のchevronが椎体と固着している点が他のモササウルス科には見られない特徴であると記載しました。

分類と種

クリダステスの歯骨と椎骨の形態は、モササウルス科の中でもモササウルス亜科のモササウルスに最も近いとされています。クリダステスは、最も基盤的なモササウルス亜科であり、またヒドロペダルを持つモササウルス亜科の中でも基盤的な属であるとされています。

現在、クリダステス属で有効な種はC. propythonのみです。

無効な種

Clidastes liodontus: カンザス州から産出。小型で、C. propythonの祖先である可能性もある。タイプ標本は第二次世界大戦で紛失。
"Clidastes moorevillensis": アラバマ州産出。歯の特徴に基づき区別される可能性がある。

これらの種は、Lively (2019) によって疑問名とされ、クリダステス属はC. propythonのみとする説が提唱されています。

Clidastes propython

C. propythonは、クリダステス属の中で最も研究が進んだ種で、国際動物命名規約によりタイプ種に指定されました。アメリカ合衆国やスウェーデンから化石が発見されており、最古の標本は中期サントニアン、最新のものは中期-後期カンパニアンに由来します。かつては多くの断片的な種がこの種に割り当てられていました。以下のような特徴を持ちます。

前上顎骨は水平断面でV字型をなし、小型である。
前上顎骨の前方に吻が存在する。
第2前上顎骨歯の根元の後腹側部位は上顎骨との縫合表面に露出する。
前上顎骨-上顎骨の縫合線は緩やかなカーブを描き後側に上昇、第7上顎骨歯の上で末端となる。
上顎骨-前上顎骨の縫合線は滑らかなキール状で、上顎骨の経線方向軸に平行。
上顎骨歯は16 - 18本。
頭頂骨の中央背側表面はやや広い。
頭頂孔は小さく、前頭骨との縫合線に近い。
頭頂孔は楕円形をなし、腹側に開き、腹側の径が背側の約5倍。
前耳骨の前側境界は前耳骨切痕の下で棚状構造をなし、蝶形骨底部で急激に下る。
第VII脳神経のための孔は前耳骨の内壁を通って頭蓋腔に存在する。
上あぶみ骨突起は方形骨に存在する。
歯骨歯は17本。

Clidastes iguanavus

カンパニアンに生息したC. iguanavusは、クリダステス属の元々のタイプ種です。しかし、研究はあまり進んでいません。タイプ標本は胸部前方に由来する単一の椎骨で、ニュージャージー州で発見されました。椎骨の関節は腎臓型の概形を持ち、強い凹状部位が脊髄の背側に存在します。

まとめ

クリダステスは、モササウルス科の中でも特異な進化を遂げた海生爬虫類です。その骨格構造や歯の特徴、生息地や分類など、多岐にわたる研究が進められています。特にC. propython*は、その詳細な形態が明らかになっており、モササウルス科の進化を理解する上で重要な存在です。今後の研究により、クリダステスの生態や進化の謎がさらに解き明かされることが期待されます。

もう一度検索