イザベル・パターソン

イザベル・パターソン(1886年1月22日 - 1961年1月10日)は、カナダ出身のアメリカ人ジャーナリスト、小説家、政治思想家、文芸評論家として知られています。彼女は、ローズ・ワイルダー・レーン、アイン・ランドと共に、アメリカにおけるリバタリアニズムの確立に貢献した「3人の母」の一人とされています。ランド自身も、パターソンから大きな知的影響を受けたと認めています。

『機械の神』とその影響



パターソンの最も有名な著書は、1943年に発表された『機械の神』(The God of the Machine)です。この作品は、政治思想、経済、歴史に関する広範な考察を展開し、多くのリバタリアンにとって、自身の哲学の基礎となる重要な文献とされています。伝記作家のステファン・D.コックスは、パターソンを「今日リバタリアニズムとして知られる思想を生み出した最初期の人物」と評しています。アイン・ランドは、『機械の神』を「世界を救う文書」と絶賛し、資本主義にとっての『資本論』や聖書に匹敵する重要性を持つと述べています。

生涯



イザベル・メアリー・ボウラーとしてカナダオンタリオ州で生まれたパターソンは、幼少期に家族と共にカナダ西部に移住し、アルバータ州の牧場で育ちました。貧しい家庭環境で育ち、学校教育は3年程度しか受けていませんが、幼い頃から独学で大量の本を読みました。10代の頃には、ウェイトレス、速記者、簿記係など様々な職を経験し、後にカナダ首相となるリチャード・ベッドフォード・ベネットのアシスタントも務めました。

1910年に結婚しましたが、1918年に離婚。その後、アメリカ合衆国ワシントン州スポケーンの新聞社でジャーナリストとしてのキャリアをスタートさせ、ブリティッシュコロンビア州バンクーバーの新聞社ではドラマ評を担当しました。

作家・評論家としてのデビュー



1914年、初めての小説である『カササギの巣』(The Magpie's Nest)と『シャドー・ライダーズ』(The Shadow Riders)を出版社に売り込みますが、当初は出版を断られ続けました。1916年に『シャドー・ライダーズ』、1917年に『カササギの巣』が出版され、作家としての第一歩を踏み出しました。

第一次世界大戦後、ニューヨークに移り住み、彫刻家のガットスン・ボーグラムの下で働きました。また、「ワールド」紙や「アメリカン」紙にも記事を執筆しました。1921年からは、「ニューヨーク・トリビューン」紙の文芸編集者のアシスタントを務め、1924年から1949年までの25年間、「I.M.P.」の署名で書評コラムを執筆し、同時代で最も影響力のある文芸評論家の一人となりました。

辛辣なウィットと容赦ない批判精神で知られ、フランクリン・ルーズベルトニューディール政策に反対し、政府の社会・経済への介入を減らすことを主張しました。

アイン・ランドとの親交



1930年代末には、アイン・ランドを含む若いライターたちのグループを率い、議論を重ねました。ランドは、パターソンからアメリカの歴史と政治に関する知識を学び、パターソンは、ランドから『機械の神』に結実するアイディアを得ました。二人は互いの著書の宣伝に努め、長年にわたり手紙をやり取りしましたが、宗教や哲学に関する意見の相違から、1948年に決裂しました。

後半生と遺産



パターソンは、ラッセル・カークやウィリアム・F・バックリー・ジュニアとの交流を通じて、第二次世界大戦後のアメリカにおける保守主義の勃興にも影響を与えました。「ナショナル・レビュー」誌に寄稿もしましたが、ランドの『肩をすくめるアトラス』に対する書評を批判するなど、バックリーとは意見が対立することもありました。

引退にあたり、社会保障の受給を辞退し、社会保障カードを「社会保障詐欺」と書いた封筒に入れたままにしました。1961年1月10日に死去し、ニュージャージー州に埋葬されました。

『機械の神』は、リバタリアニズム思想の源流として、現代においても読み継がれています。

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