イザード・チャールズ

エザード・チャールズ（Ezzard Mack Charles）は、1921年7月7日に生まれ、1975年5月28日に生涯を終えたアフリカ系アメリカ人のプロボクサーである。元世界ヘビー級王者としてその名を歴史に刻み、「シンシナティ・コブラ」の愛称で親しまれた。実際の出生地はジョージア州ローレンスビルだが、一般にはシンシナティ生まれと認識されている。

プロキャリアは1940年に始まった。当初はライトヘビー級で活躍し、この階級では世界タイトルに手が届かなかったものの、その実力は極めて高く評価されている。特に『リングマガジン』は、彼を史上最強のライトヘビー級ボクサーの一人にランク付けしている。第二次世界大戦中は兵役に従事したため、1944年から1945年にかけて試合から遠ざかる期間があった。

戦後にリングに復帰したチャールズは、再びその才能を発揮し始めた。特に、後に偉大なチャンピオンとなるアーチー・ムーアとは3度対戦し、いずれも勝利を収めている。その中にはKO勝利もあった。しかし、プロキャリアの中で忘れられない悲劇にも見舞われた。1948年の試合で対戦した若手ボクサー、サム・バロウディが、試合中の負傷がもとで亡くなるという痛ましい出来事が発生したのである。この事態にチャールズは深い精神的ショックを受け、引退まで真剣に考えたという。しかし、バロウディの父親から「サムはボクシングを生きがいとしていました。あなたがボクシングをやめては、あの子も喜ばないでしょう」と強く慰留され、リングに留まることを決意したとされる。この悲劇的な経験は、チャールズのその後のファイトスタイルに大きな影響を与えた。相手を完全に打ちのめすことを避けるかのような、より慎重で技術を重視するスタイルへと変化していったと言われている。

ライトヘビー級でのタイトル獲得が果たせなかったことから、チャールズはより大きな体格のヘビー級への転向を決断した。この階級変更は、彼のキャリアの新たな幕開けとなった。1949年6月22日、彼はジャーシー・ジョー・ウォルコットと対戦し、判定でこれを破ることに成功。これにより、当時空位となっていた全米ボクシング協会（NBA）の世界ヘビー級王座を獲得した。さらに、翌1950年には、チャールズがキャリア初期から目標としていた伝説的な前王者、ジョー・ルイスとの対戦が実現する。この一戦でも、チャールズは卓越したボクシング技術を見せつけ、判定勝利を収めた。

しかし、王座防衛の道のりは平坦ではなかった。ウォルコットとの再戦では勝利を収めたものの、1951年に行われた再々戦では、ウォルコットの左フックを浴び、7回KO負けを喫し王座を失った。その後もウォルコットとは2度対戦したが、いずれも判定での敗北に終わった。これらの試合における判定には議論の余地があるとする見方もあり、もしチャールズが勝利していれば、史上初のヘビー級王座返り咲きという快挙を成し遂げていた可能性も指摘されている。

チャールズのキャリアにおけるクライマックスの一つは、無敗の世界ヘビー級王者ロッキー・マルシアノとの2度にわたる対戦である。これらの試合はボクシング史に残る名勝負として語り継がれている。1954年6月に行われた第1戦では、チャールズは勇敢にマルシアノに立ち向かい、序盤から積極的な攻めを見せ、多くのラウンドでポイントを優位に進めた。しかし、マルシアノの驚異的な粘りと強打の前に屈し、敗れた。同年9月の第2戦はさらに壮絶な展開となった。チャールズはマルシアノの鼻を打ち砕き、試合を中断に追い込む寸前まで追い詰めたが、マルシアノは驚異的な回復力を見せ、終盤の8回にチャールズを逆転のKOで破った。この死闘は、その年の「ファイト・オブ・ザ・イヤー」に選出された。

マルシアノとの激闘以降、チャールズは経済的な困窮から、十分な休息を取ることなくリングに上がり続けざるを得なくなった。キャリアの晩年には、かつての輝きを失い、最後の23戦で12敗を喫するなど、苦しい時期を送った。そのプロキャリアの通算成績は、96勝（58KO）25敗1分という堂々たる記録である。エザード・チャールズは1975年5月28日、筋萎縮性側索硬化症によりシカゴで53歳の生涯を閉じた。彼のボクシング界への貢献とその卓越した技術は高く評価され、1990年には国際ボクシング名誉の殿堂博物館に殿堂入りを果たした。ヘビー級王者として、またライトヘビー級でも史上屈指の存在として、チャールズはボクシング史において重要な位置を占めている。

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