イスラエルとイラクの関係

概要

イスラエル国とイラク共和国は、外交関係を公式に結んでいない。イスラエルが建国された1948年以降、両国は一貫して敵対的な関係にあり、中東地域で発生した複数の戦争で直接的または間接的に交戦してきた。イラクはイスラエルを国家として承認しておらず、現在も厳密には1948年以来の戦争状態が継続していると見なされている。

歴史

イスラエル建国からイラク戦争まで

両国の関係史は、イスラエル建国以前に遡る。1930年代には、当時の宗主国であるイギリスによって、イラク西部からパレスチナ委任統治領（現在のイスラエル）のハイファに至る石油パイプラインが建設された。第二次世界大戦中の1941年に発生した英イラク戦争には、後のイスラエル独立運動に関わる組織も関与している。

1948年5月、イスラエルの建国が宣言されると、イラク軍を含むアラブ諸国の軍隊がパレスチナ領に侵攻し、第一次中東戦争が勃発した。この紛争の結果、ハイファへの石油パイプラインは停止され、シリア経由の代替ルートが使用されるようになった。特筆すべきは、この戦争後、イラクがアラブ諸国の中で唯一、イスラエルとの間に停戦協定を結ばなかった点である。これにより、両国は法的に終結していない戦争状態にあると認識されている。

イスラエルと国境を接していないにもかかわらず、イラクはその後の中東戦争でも一定の役割を果たした。1967年の第三次中東戦争（六日間戦争）では、ヨルダンに部隊を駐留させて参戦したが、本格的な戦闘に入る前に戦争は終結し、犠牲者は限定的だった。より大きな役割を担ったのは、1973年の第四次中東戦争（ヨム・キプール戦争）である。シリア軍の戦線が崩壊の危機に瀕した際、イラクは約3万人もの兵力と多数の戦車、装甲車をシリア方面に派遣し、シリア、イラク、ヨルダンの連合軍はイスラエルのさらなる進出を阻止した。しかし、イスラエル軍を後退させることはできず、最終的にアラブ側は敗北し、イスラエル軍はシリアの首都ダマスカスからわずか40キロの地点に展開した。

サダム・フセイン大統領の時代に入ると、イスラエルはイラクを地域の主要な安全保障上の脅威と見なすようになった。特に、イラクの核開発疑惑はイスラエルの警戒心を強め、1981年にはイラクのオシラク原子炉を爆撃する軍事行動に踏み切った。この攻撃は、イラクがイラン・イラク戦争の最中であったため、直接的な報復を受けることはなかった。イスラエルは、この戦争においてはイラクよりもイランを脅威と捉え、秘密裏にイランを支援したとされる。

1991年の湾岸戦争では、イラクは明確な挑発がないにもかかわらず、イスラエルに対し多数のスカッドミサイルを発射した。これは、イスラエルを戦争に引き込み、アメリカ主導の多国籍軍に参加していたアラブ諸国の連携を分断する狙いがあったと考えられている。しかし、アメリカ政府がイスラエルに対し報復攻撃を控えるよう強く要請した結果、イスラエルは軍事的な反応を示さなかった。

水面下での接触も試みられた。イギリスの作家ナイジェル・アシュトンによれば、1995年にイスラエルのイツハク・ラビン首相は、ヨルダンのフセイン国王を通じてサダム・フセイン大統領に会談を求めるメッセージを送ったという。ラビン首相は、イラクとの和平がイランやシリアとの関係に影響を与える可能性を探っていたとされるが、同年11月のラビン首相暗殺により、この動きは途絶えた。皮肉なことに、ラビンは以前、サダム・フセインの暗殺を目的としたイスラエルの軍事作戦を指揮し、失敗した経験があった。

サダム・フセイン政権は、パレスチナ問題において明確な親パレスチナの立場を取り、アラブ世界で一定の支持を得ていた。彼はパレスチナの様々な組織を支援し、第二次インティファーダ（パレスチナ蜂起）の際には、自爆攻撃を行ったパレスチナ人の遺族に対し金銭的な支援を行った。

イラク戦争以降

2003年、アメリカとイギリスを中心とする多国籍軍による軍事作戦（イラクの自由作戦）によってサダム・フセイン政権は崩壊した。イスラエルはこの連合軍には含まれていなかったが、その作戦への関与や支援の程度については様々な見方がある。当時の野党指導者であったベンヤミン・ネタニヤフは（私人として）イラク侵攻の重要性を肯定的に語ったとされ、イスラエルの情報機関がイラクの大量破壊兵器計画に関する報告書をアメリカに提出したとの報道もあった。

しかし、アメリカ国防次官であったダグラス・フィースは、イスラエルの高官がアメリカ政府にイラク戦争を積極的に働きかけたわけではないと証言しており、イスラエル側はイラクよりもイランを安全保障上の優先事項と見なしていたという異なる見解も存在する。

フセイン政権崩壊後のイラク政府も、イスラエルとの関係正常化には消極的な姿勢を示している。2004年にはイヤード・アッラーウィー首相がイスラエルとの和解はあり得ないとの考えを示し、2012年にはヌーリー・マーリキー首相が、イスラエルを除く全ての国と国交を樹立すると表明した。

こうした状況下でも、例外的な接触は皆無ではなかった。2008年には、国際会議の場でイスラエルのエフード・バラク国防相とイラクのジャラル・タラバニ大統領が握手を交わし、短い会談を行った。また、イラク国民議会議員のミタル・アル＝アルーシは、2004年と2008年にイスラエルを訪問し、イラク国内で強い批判を受けながらも、両国間の外交関係樹立や情報共有の必要性を訴えた。

パレスチナ問題は、イラクのイスラエルに対する姿勢に引き続き大きな影響を与えている。2008年から2009年にかけてのガザ紛争（キャストレッド作戦）では、イラク政府はイスラエルの攻撃を強く非難し、軍事作戦の停止と国際社会の介入を求めた。当時のマーリキー首相は、イスラム諸国に対しイスラエルとの関係断絶を呼びかけた。シーア派最高権威者であるアリー・スィースターニー師も攻撃を非難し、アラブ・イスラム諸国に具体的な行動を促した。2010年のガザ船団襲撃事件発生時も、イラク政府高官はこれを「新たな人道的大惨事」であり「人権侵害」であると非難した。

経済面では、イスラエルへの石油密輸疑惑が浮上したことがある。一部のイラク政府関係者やクルド人指導者は、イラク政府がヨルダン経由でイスラエルに石油を密輸していると非難したが、イラク政府やヨルダン政府はこれを否定した。反対に、イラク首相がイラク・クルディスタン地域がイスラエルに石油を密輸していると非難するなど、国内での非難合戦となった。

政治的な動きとして、2017年のイラク・クルディスタン地域における独立住民投票の際、イスラエルは主要国の中で唯一、クルド人の独立を支持する姿勢を示した。その後のイラク政府によるクルド地域への軍事行動（キルクーク危機）では、イスラエルのネタニヤフ首相は、国際社会に対しクルド人がさらなる苦境に立たされないよう働きかけた。

渡航・査証

イラクは、アラブ連盟によるイスラエルへのボイコット政策を引き続き強く支持している。このため、イラクのパスポートはイスラエルへの渡航に利用できず、同様にイスラエルのパスポートもイラクへの入国には無効である。イスラエルの法律では、イラクを含む多くのアラブおよびイスラム諸国が「敵国」に指定されており、イスラエル国民がこれらの国を訪問するためには、内務省が発行する特別な許可が必要となる。

両国間の公式な関係の欠如と歴史的な敵対関係は、現在も続いている。

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