イスラエルの映画

イスラエル映画は、1920年代のイギリス統治下パレスチナにおけるユダヤ人入植時代からその歴史が始まります。初期の映画製作は、パレスチナへの入植を肯定するプロパガンダ的な記録映画が多くを占めていました。ネイサン・アクセルロッドによる膨大な記録映像「カーメル・ニュースリール」や、イスラエルで初めて製作された長篇劇映画『さすらうオデッド（仮題）』などがこの時期の代表作として挙げられます。イディッシュ語映画も製作されましたが、ヘブライ語推進派からの批判によりイスラエルでの製作は衰え、アメリカで発展することになります。

1948年のイスラエル建国後は、ユダヤ人の経験、特に「開拓者」の苦労を描いた作品や、国民意識高揚のための戦争映画が盛んに製作されました。イギリスの巨匠ソロルド・ディキンソンもイスラエルで戦争映画を製作しています。1960年代に入ると、経済安定に伴い映画製作は多様化し、メナヘム・ゴーランが大きな影響を与えました。彼はイスラエル空軍出身で、ロジャー・コーマンに師事した後、映画会社を設立し、『サラ（仮題）』（1964）で国際的な成功を収めます。その後ハリウッドに進出し、プロデューサーとして活躍しました。ウーリ・ゾハールやエフライム・キションらコメディアン出身の監督も台頭しました。

1967年の第三次中東戦争は、戦争映画のブームを再び巻き起こしました。同時に、モロッコなどから流入したセファルド系ユダヤ人をターゲットとした「ブレカ」と呼ばれる独自のジャンルが生まれました。これは、ユダヤ人コミュニティ間の対立緩和を目指したメロドラマとスラップスティック・コメディを融合した作品群です。1970年代には「カイツ運動」と呼ばれるヌーヴェルヴァーグ的な潮流が生まれ、モーシェ・ミズラヒやダン・ウォルマンといった新進気鋭の監督が登場しました。

1973年の第四次中東戦争後、イスラエル映画は自己批判の時代に入ります。娯楽的な戦争映画への批判的な再構築や、女性監督ミハル・バット＝アダムの登場などがこの時代の特徴です。また、それまでステレオタイプ的に描かれてきたアラブ人像の再考も始まりました。ウリ・バルバシュやエラン・リクリスといった監督は、アラブ人とユダヤ人の関係を多様な視点から描く作品を発表しました。デイヴィッド・パーロフによる長編ドキュメンタリー『日記（仮題）』もこの流れに位置付けられます。

現在もイスラエルは中東有数の映画製作国であり、アッシ・ダヤやアモス・ギタイといった監督は国際的な評価を獲得しています。アリ・フォルマンの『戦場でワルツを』（2008）はドキュメンタリーとアニメーションを融合させた傑作として高く評価されました。エリー・セクスターの『砂嵐（仮題）』（2016）はイスラエル初のアラビア語長篇映画として画期的です。メイサルーン・ハムードやアハロン・ケシャレスなど、世界的なアートシネマ作家も輩出しています。しかし、イスラエル映画は依然として政治的・社会的な論争の的であり、パレスチナ問題の扱いをめぐる議論は絶えません。サミュエル・マオズの『運命は踊る』（2017）はその一例と言えるでしょう。イスラエル映画は、その歴史の中で常に政治とナショナリズムの狭間で揺れ動きながら、多様な表現と革新を続けていると言えるでしょう。

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