イタリア弦楽四重奏団

イタリア四重奏団（Quartetto Italiano）

イタリア四重奏団は、1945年に風光明媚なカプリ島で産声を上げ、その結成から1980年の解散まで、約35年間にわたりクラシック音楽界に大きな足跡を残した、20世紀を代表する弦楽四重奏団の一つです。その洗練されたアンサンブルと、知的な解釈による演奏は、世界中の聴衆や批評家から高い評価を得ました。

沿革

グループは結成当初、「新イタリア四重奏団」（Nuovo Quartetto Italiano）という名称で活動を開始しました。この名称は、すでに活動していた他のイタリアの四重奏団と区別するため、あるいは新たな時代の到来を示す意図があったのかもしれません。しかし、その名声が高まるにつれて、やがて彼らは「新」という言葉を冠する必要がなくなります。1951年には正式に名称から「新」を外し、「イタリア四重奏団」として活動を続けることになりました。これは、彼らがイタリアを代表する、唯一無二の存在となったことを示す出来事と言えるでしょう。

彼らの活動における特筆すべき業績の一つは、大規模な全曲録音プロジェクトです。特にルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェンの弦楽四重奏曲全曲録音は、1967年から1975年という歳月をかけて完成され、彼らの代表的なレコーディングとして今なお高く評価されています。この全集は、ベートーヴェンの広範で深遠な世界を、彼らならではの精緻かつ情感豊かな演奏で描き出しています。ベートーヴェン以外にも、彼らはヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト、ロベルト・シューマン、ヨハネス・ブラームス、アントン・ウェーベルンといった作曲家の弦楽四重奏曲全集録音を次々と手掛けました。これらの録音は、彼らのレパートリーの幅広さと、各時代の作品に対する深い理解を示しています。

古典やロマン派の主要作品に加え、イタリア四重奏団は現代音楽の紹介にも積極的でした。彼らは、同時代のイタリア人作曲家であるシルヴァーノ・ブッソッティの「グラムシ四重奏」や「グラムシの種子」、そしてジャチント・シェルシの弦楽四重奏曲第4番といった野心的な作品の世界初演を担いました。これは、彼らが伝統を継承するだけでなく、新しい音楽の創造にも貢献しようとする姿勢を示しています。

メンバー

イタリア四重奏団は、その活動期間を通じて、中心となるメンバーが極めて安定していたことでも知られています。不動のメンバーとして、以下の3名が結成から解散まで四重奏団を支えました。

第1ヴァイオリン: パオロ・ボルチャーニ（Paolo Borciani, 1922年–1985年）
第2ヴァイオリン: エリサ・ペグレッフィ（Elisa Pegreffi, 1922年–2016年）
チェロ: フランコ・ロッシ（Franco Rossi, 1921年–2006年）

この強固なコアメンバーに加え、唯一ヴィオラ奏者のみが活動期間中に交代しています。歴代のヴィオラ奏者は以下の通りです。

初代: リオネッロ・フォルツァンティ（Lionello Forzanti, 1913年–2009年）
在籍期間: 1945年 – 1947年
2代目: ピエロ・ファルッリ（Piero Farulli, 1920年–2012年）
在籍期間: 1947年 – 1977年
3代目: ディーノ・アショッラ（Dino Asciolla, 1920年–1994年）
在籍期間: 1977年 – 1980年（解散まで）

ヴィオラ奏者の交代はあったものの、パオロ・ボルチャーニ、エリサ・ペグレッフィ、フランコ・ロッシの3人が中心となって創り上げたアンサンブルの響きと音楽性は、イタリア四重奏団のユニークなスタイルを確立しました。彼らの演奏は、細部まで磨き上げられた完璧なテクニックと、作品の内面に深く分け入る精神性を兼ね備えており、特にモーツァルトやベートーヴェン、ブラームスなどの解釈において、現代の多くの演奏家や四重奏団に影響を与えています。

1980年に活動を終え解散しましたが、彼らが残した録音は、今なお弦楽四重奏の演奏史において重要な地位を占めています。特にベートーヴェンの弦楽四重奏曲全集は、数ある名盤の中でも常に上位に挙げられる歴史的録音として、後世に語り継がれています。

関連項目

ミラノ音楽院
* パオロ・ボルチアーニ賞

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