ジャチント・シェルシ
ジャチント・シェルシ（Giacinto Scelsi, 1905年1月8日 - 1988年8月9日）は、イタリア・ラ・スペツィア出身の作曲家であり、詩人でもありました。彼は現代音楽の分野で独自の道を切り開き、その特異な音楽観と制作手法は、後世の音楽家たちに大きな影響を与えました。
シェルシは貴族の末裔として生まれ、幼少期から音楽に触れて育ちました。初期には作曲をGiacinto Sallustioに師事し、その後、1935年から1936年にかけてWalter Kleinから十二音技法を学びました。しかし、彼は既存の音楽技法に安住することなく、独自の音世界を追求しました。
1945年以降、シェルシは他の作曲家との「共同作曲」という形態を採用し、1970年代までこの方法で多くの作品を生み出しました。これは、彼の音楽を語る上で欠かせない特徴の一つです。1980年代に入ると、彼は自身の作品のプロモーションや作曲技法の伝授に力を入れ、アンサンブル・シッダルタやアンサンブル・2e2mなどとのコラボレーションも行いました。また、ダルムシュタット夏季現代音楽講習会にも招待されるなど、その才能は国際的にも認められていました。
晩年になるまで、彼の作品はイタリア国外にほとんど知られることはありませんでしたが、本人の積極的なプロモーション活動により、1990年代から西ヨーロッパ、アメリカ、日本を中心にCD録音が広まりました。また、シェルシは詩作も行っており、CDのライナーノートには最晩年の作品が残されています。
シェルシの音楽活動で特に注目すべきは、共同作曲という特異な制作スタイルです。作曲家ヴィエーリ・トサッティの証言によれば、1940年代以降のシェルシ名義の作品には、トサッティをはじめとする複数の作曲家が関わっていたことが明らかになっています。
共同作曲は、主に以下の4段階に変化しました。
1. 十二音技法の応用: シェルシが十二音の音列を提示し、トサッティがそれに基づいて作曲する。この段階では『弦楽四重奏曲第1番』や『ことばの誕生』が制作されました。
2. ピアノ即興の採譜: シェルシのピアノ即興演奏を採譜する。この段階では、セルジョ・カファーロの協力を得て、多くのピアノ曲が制作されました。
3. オンディオリーナの使用: 電気鍵盤楽器オンディオリーナを用い、シェルシが即興的に音を変化させた録音を元にトサッティが作曲する。この段階で、シェルシの「ひとつの音」による最初の作品とされる『四つの小品』が制作されました。
4. 図形の素描: シェルシが描いた図形の素描を元にトサッティが作曲する。しかし、この段階で制作された作品は多くありません。
トサッティの証言はシェルシの死後になされましたが、彼の生前から、一部の作曲家の間では「公然の秘密」として知られていました。しかし、国外ではこの事実が知られていなかったため、『ことばの誕生』が国際現代音楽協会（ISCM）の大会で初演される際に、この事実を知っていたゴッフレド・ペトラッシは、ロジェ・デゾルミエールの発言に笑いを堪えきれなかったという逸話も残っています。
1970年代、メディチ家滞在奨学生制度を利用してシェルシの家に押し掛けたジェラール・グリゼーとトリスタン・ミュライユは、シェルシの作曲法を学びました。シェルシ自身は自身の技術を秘匿せず、創作プロセスのみを伝えたとされています。後にミカエル・レヴィナスやユグ・デュフールも加わり、彼らは後にスペクトル楽派と呼ばれる音楽運動を形成しました。シェルシの音楽が持つ、単音の探求や微分音の使用といった特徴は、スペクトル楽派の作曲家たちに大きな影響を与えたと考えられています。
シェルシは、音楽家としての活動だけでなく、詩人としても才能を発揮しました。また、彼の署名は棒に丸が乗っただけの非常にシンプルなもので、写真撮影を嫌っていたことでも知られています。しかし、第二次世界大戦以前の公式写真や、後妻が撮影したプライベート写真が残されています。平山美智子は、彼の作品「山羊座の歌」を二度録音しています。
シェルシの音楽は、既存の音楽理論や技法に囚われず、独自の音世界を追求したものであり、現代音楽の新たな可能性を示唆するものとして、今日でも多くの人々に愛されています。彼の作品は、現在も演奏会やCDなどで触れることができ、その斬新な響きは聴く人の心を捉えて離しません。
シェルシの主要な作品は以下の通りです。
弦楽四重奏曲第1番
ことばの誕生
四つの小品
山羊座の歌
シェルシは、音楽作品だけでなく、詩やエッセイも残しています。
Le Poids net et l'Ordre de ma vie (1945)
Sommet du feu (1947)
Le Poids net (1949)
L'Archipel Nocturne (1954)
La conscience aiguë (1962)
Cercles (1986)
Il Sogno 101 (Dream 101) (2010)
L'homme du son (2006)
Les anges sont ailleurs (2006)
Il Sogno 101 (2006)
長木誠司『前衛音楽の漂流者たち もう一つの音楽的近代』（ 1993年）筑摩書房
イザベラ・シェルシ財団公式サイト
生涯と音楽的背景
シェルシは貴族の末裔として生まれ、幼少期から音楽に触れて育ちました。初期には作曲をGiacinto Sallustioに師事し、その後、1935年から1936年にかけてWalter Kleinから十二音技法を学びました。しかし、彼は既存の音楽技法に安住することなく、独自の音世界を追求しました。
1945年以降、シェルシは他の作曲家との「共同作曲」という形態を採用し、1970年代までこの方法で多くの作品を生み出しました。これは、彼の音楽を語る上で欠かせない特徴の一つです。1980年代に入ると、彼は自身の作品のプロモーションや作曲技法の伝授に力を入れ、アンサンブル・シッダルタやアンサンブル・2e2mなどとのコラボレーションも行いました。また、ダルムシュタット夏季現代音楽講習会にも招待されるなど、その才能は国際的にも認められていました。
晩年になるまで、彼の作品はイタリア国外にほとんど知られることはありませんでしたが、本人の積極的なプロモーション活動により、1990年代から西ヨーロッパ、アメリカ、日本を中心にCD録音が広まりました。また、シェルシは詩作も行っており、CDのライナーノートには最晩年の作品が残されています。
特異な制作スタイル：共同作曲
シェルシの音楽活動で特に注目すべきは、共同作曲という特異な制作スタイルです。作曲家ヴィエーリ・トサッティの証言によれば、1940年代以降のシェルシ名義の作品には、トサッティをはじめとする複数の作曲家が関わっていたことが明らかになっています。
共同作曲は、主に以下の4段階に変化しました。
1. 十二音技法の応用: シェルシが十二音の音列を提示し、トサッティがそれに基づいて作曲する。この段階では『弦楽四重奏曲第1番』や『ことばの誕生』が制作されました。
2. ピアノ即興の採譜: シェルシのピアノ即興演奏を採譜する。この段階では、セルジョ・カファーロの協力を得て、多くのピアノ曲が制作されました。
3. オンディオリーナの使用: 電気鍵盤楽器オンディオリーナを用い、シェルシが即興的に音を変化させた録音を元にトサッティが作曲する。この段階で、シェルシの「ひとつの音」による最初の作品とされる『四つの小品』が制作されました。
4. 図形の素描: シェルシが描いた図形の素描を元にトサッティが作曲する。しかし、この段階で制作された作品は多くありません。
トサッティの証言はシェルシの死後になされましたが、彼の生前から、一部の作曲家の間では「公然の秘密」として知られていました。しかし、国外ではこの事実が知られていなかったため、『ことばの誕生』が国際現代音楽協会（ISCM）の大会で初演される際に、この事実を知っていたゴッフレド・ペトラッシは、ロジェ・デゾルミエールの発言に笑いを堪えきれなかったという逸話も残っています。
スペクトル楽派への影響
1970年代、メディチ家滞在奨学生制度を利用してシェルシの家に押し掛けたジェラール・グリゼーとトリスタン・ミュライユは、シェルシの作曲法を学びました。シェルシ自身は自身の技術を秘匿せず、創作プロセスのみを伝えたとされています。後にミカエル・レヴィナスやユグ・デュフールも加わり、彼らは後にスペクトル楽派と呼ばれる音楽運動を形成しました。シェルシの音楽が持つ、単音の探求や微分音の使用といった特徴は、スペクトル楽派の作曲家たちに大きな影響を与えたと考えられています。
シェルシの人物像
シェルシは、音楽家としての活動だけでなく、詩人としても才能を発揮しました。また、彼の署名は棒に丸が乗っただけの非常にシンプルなもので、写真撮影を嫌っていたことでも知られています。しかし、第二次世界大戦以前の公式写真や、後妻が撮影したプライベート写真が残されています。平山美智子は、彼の作品「山羊座の歌」を二度録音しています。
シェルシの音楽は、既存の音楽理論や技法に囚われず、独自の音世界を追求したものであり、現代音楽の新たな可能性を示唆するものとして、今日でも多くの人々に愛されています。彼の作品は、現在も演奏会やCDなどで触れることができ、その斬新な響きは聴く人の心を捉えて離しません。
作品リスト
シェルシの主要な作品は以下の通りです。
弦楽四重奏曲第1番
ことばの誕生
四つの小品
山羊座の歌
著作
シェルシは、音楽作品だけでなく、詩やエッセイも残しています。
Le Poids net et l'Ordre de ma vie (1945)
Sommet du feu (1947)
Le Poids net (1949)
L'Archipel Nocturne (1954)
La conscience aiguë (1962)
Cercles (1986)
Il Sogno 101 (Dream 101) (2010)
L'homme du son (2006)
Les anges sont ailleurs (2006)
Il Sogno 101 (2006)
参考文献
長木誠司『前衛音楽の漂流者たち もう一つの音楽的近代』（ 1993年）筑摩書房
外部リンク
イザベラ・シェルシ財団公式サイト
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