イッポーリト・デ・メディチ

イッポーリト・デ・メディチは、1511年にヌムール公ジュリアーノの庶子としてウルビーノで生まれました。彼は、幼くして父を亡くし、伯父であるローマ教皇レオ10世と従叔父ジュリオ・デ・メディチ（後の教皇クレメンス7世）に育てられました。

1523年、クレメンス7世が教皇に即位すると、イッポーリトは又従兄のアレッサンドロ・デ・メディチと共にフィレンツェの支配を任されました。しかし、実際にはクレメンス7世が任命した後見人、シルヴィオ・パッセリーニ枢機卿を通じて、ローマからフィレンツェを遠隔統治する体制が敷かれました。1527年にはローマ劫掠に続くフィレンツェ市民の反乱によって、イッポーリトたちは追放されました。

1529年から1530年にかけてのフィレンツェ包囲戦後、クレメンス7世は、イッポーリトではなくアレッサンドロを寵愛するようになり、イッポーリトをアヴィニョン大司教、後に枢機卿に任命し、教皇特使としてハンガリーへ派遣するなど、彼を遠ざけようとしました。

1534年にクレメンス7世が亡くなると、フィレンツェを単独で支配するようになったアレッサンドロと対立し、イッポーリトは亡命を余儀なくされました。亡命先では、フィリッポ・ストロッツィ、ピエロ・ストロッツィ親子、ニッコロ・リドルフィ枢機卿、ジョヴァンニ・サルヴィアーティ枢機卿ら有力者と親交を結びました。1535年には神聖ローマ皇帝カール5世のフィレンツェ大使を務めましたが、同年にアレッサンドロの暴政を皇帝に訴える途中で、マラリアのため急逝しました。この死は、アレッサンドロによる毒殺の噂も広まりました。

イッポーリトは、芸術家との交流も深く、特にジョルジョ・ヴァザーリとは幼少期からの学友でした。フィレンツェ僭主時代には、ヴァザーリやアレッサンドロと親交を深め、1530年にボローニャで再会した際には、ヴァザーリをティツィアーノ・ヴェチェッリオに引き合わせました。また、ヴァザーリを召し抱え、ハンガリー赴任の際には、ヴァザーリをアレッサンドロの家で待機させるなど、様々な便宜を図りました。ヴァザーリはイッポーリトのために『キリストの埋葬』を制作しましたが、最終的にこの絵はアレッサンドロの手に渡り、ヴァザーリ自身もアレッサンドロに仕えることになりました。さらに、亡命中にはミケランジェロ・ブオナローティとも交流がありました。

恋愛面では、従姪にあたるカテリーナ・デ・メディチと相思相愛でしたが、カテリーナをフランス王フランソワ1世の次男アンリ王子（後のアンリ2世）に嫁がせることを考えていたクレメンス7世によって引き離されました。また、ジューリア・ゴンザーガという愛人もいました。

イッポーリトの生涯は、メディチ家の権力闘争と芸術文化が交錯する時代を象徴しており、彼の死は多くの謎と憶測を呼びました。彼の人生は、芸術家たちとの関係を通して、ルネサンス期の社会と文化を深く理解する上で重要な手がかりとなっています。

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