イビル・シビルの戦い

イビル・シビルの戦い

概要

イビル・シビルの戦いは、1293年から1297年にかけて、現在の西シベリア平原にあたるイビル・シビル地方で展開されたカイドゥ・ウルス軍と大元ウルス軍との間の一連の戦闘を指します。戦闘の発生原因は明確な記録が残されていませんが、ジョチ・ウルスと大元ウルスの友好関係が崩れることを警戒したカイドゥ・ウルスの拡張政策が発端とされています。

背景

13世紀後半、オゴデイ家に属するカイドゥは、モンゴル帝国第5代皇帝クビライによる中央集権的政策に対抗して独立した王権であるカイドゥ・ウルスを樹立しました。彼は、大元ウルスとの戦闘を繰り返しながら、自身の勢力を確立しようとしていました。1287年のナヤンの乱を利用し、1288年と1290年にも出兵しましたが、いずれも大元ウルス側の防御に阻まれ、両者の抗争は膠着状態となりました。

その一方で、ジョチ・ウルスは中央アジアにおける権益を守るため、両者の争いに慎重な中立政策を維持していました。しかし、1280年に新しい当主トダ・モンケが即位した後、彼らは大元ウルスとの友好関係を築くことを決定しました。これがカイドゥ・ウルスの脅威を増大させ、いわば新たな対立の火種となります。

戦闘の経過

イビル・シビルの戦いは、カイドゥ・ウルスが支配する地域に対抗するために大元ウルス軍が出動したことで始まりました。1292年までに、クビライの死によってカイドゥ・ウルスの中で結束が緩むこととなり、これを逆手に取った大元ウルス軍が活発に戦闘を展開しました。

第一次戦役

1293年、トトガクが率いる大元ウルス側の軍はケム川北上を開始し、カイドゥ軍に遭遇して勝利を収めます。この戦闘により、クビライの死で一時的な混乱に陥ったカイドゥ・ウルスは、反撃に出ざるを得なくなります。

この後、カイドゥは動揺していた首領たちを再び統制・指揮し、積極的な攻勢に転じます。大元ウルス軍は既に両者の戦闘を経験したことから、準備を整えてカイドゥ軍に対抗します。これにより、戦局は再び互角に近くなりました。

第二次戦役

1297年、大元ウルス軍はアルタイ山脈を越えてカイドゥ軍との大きな戦闘を開始しました。ここでの成功により、大元ウルス軍はカイドゥ軍のキャプチャを果たし、彼らの勢力を徐々に削っていきます。特に、チョンウルの指揮のもと、敵軍を追撃する戦術が功を奏し、戦闘は優勢に進むこととなります。

また、敵軍が陣をしっかり構築していたため、攻撃するのに困難を極めましたが、チョンウルが大胆に攻撃を仕掛けたことで敵軍を混乱に陥れ、数々の勝利を収めました。

結果と影響

イビル・シビルの戦いは、最終的に大元ウルスにとっての戦略的成功に終わりましたが、その後の戦闘はモンゴル高原へと移行し、さらに複雑な政局の激化を招きました。そのため、イビル・シビルの戦いは結果としてモンゴル世界の権力の微妙な変化に寄与することとなります。

この戦闘によって、カイドゥ・ウルスの力は徐々に衰え、後のテケリクの戦いに繋がり泥沼化を招いたのです。最終的には、カイドゥ・ウルスの滅亡へと至る過程の一翼を担っています。

参考文献

• - 赤坂恒明『ジュチ裔諸政権史の研究』風間書房、2005年
• - 杉山正明『モンゴル帝国の興亡（下）』講談社、1996年
• - 杉山正明『モンゴル帝国と大元ウルス』京都大学学術出版会、2004年

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