ジョチ・ウルス

ジョチ・ウルス

ジョチ・ウルス（ペルシア語: اولوس جوجي‎、Ulūs-i Jūchī‎）は、13世紀から18世紀にかけて存在したモンゴル帝国の遊牧政権であり、その名はチンギス・カンの長男ジョチに由来します。ジョチ・ウルスは、黒海北岸から中央アジアの広大なステップ地帯に至るまで広がり、さまざまな民族、文化と接触しながら繁栄しました。

名称の由来とその多様性

ジョチ・ウルスは、西欧やロシア圏では「金帳汗国」とも呼ばれ、これはロシアの史料に基づく名称です。また、日本では教科書で「キプチャク＝ハン国」という名称が広く使われてきました。これらの名称は、文献により混乱を招いています。例えば、金帳汗国という呼称は16世紀以降にロシアの歴史書に登場したものであり、当時の蔑称ともされます。このため、特にモンゴル史研究者の間ではジョチ・ウルスという呼称が多く用いられています。

組織構造と成立過程

ジョチ・ウルスは、モンゴル帝国内でジョチ家の末裔によって支配されていました。ジョチは、4人の千人隊長を率い、アルタイ山脈周辺で遊牧生活を送っていました。彼が父チンギス・カンに任命された後、南シベリアから黒海にかけての征服任務を次男のバトゥが受け継ぎます。バトゥは、1235年のクリルタイでの決定に基づいたヨーロッパ遠征軍を指揮し、広範囲にわたって侵攻を行いました。その結果、ジョチ・ウルスは中央アジアと東欧の広範囲を支配する遊牧政権として確立されました。

食邑と歴代君主

中央政府は都市サライを中心に展開し、ここで王家の君主たちが支配しました。サライはハンの宮殿となり、金で装飾された帳幕がこの政権の象徴でした。ジョチ・ウルスの君主は、チンギス・カンの直系として続き、通称バトゥ、ベルケなどが知られています。ジョチ・ウルスの君主たちは、周辺の諸民族からの納税を受けて、さらに権力を強化していきました。

政治的動向と戦争

1300年代から1400年代にかけて、ジョチ・ウルス内では宗主権が揺らぎ始めます。特にベルケの時代には、弟のフレグとの対立が続き、政治的な緊張が高まりました。また、内部抗争や他国との戦争を通じて、次第にジョチ・ウルスは解体の道を辿り、各地に新たなハン国が誕生しました。

文化と宗教

ジョチ・ウルスが広大な地域を支配する中で、多様な文化が形成され、特にテュルク系遊牧民との交流によって、モンゴル系の人々は言語や文化的にテュルク化しました。また、イスラム教はモンゴル帝国の支配下でも早くから浸透し、宗教的な影響力を持つようになりました。バトゥの弟ベルケは、イスラム教を受け入れ、以降の支配者たちもこれを踏襲し、アゼルバイジャンにおいてもイスラム教徒として名を馳せるようになります。

その後の影響

ジョチ・ウルスの崩壊後、その影響力は旧ハン国を通じて西へと広がりました。特にカザン、アストラハン、クリミアなどの諸ハン国は、モスクワ公国との関係を持つようになります。最終的に、16世紀にはロシア帝国の形成が進み、これらのハン国は影響力を失っていきましたが、その歴史的な遺産は今なお語り継がれています。ジョチ・ウルスの存在は、アジアとヨーロッパを結ぶ重要な歴史的事象として今後も注目されることでしょう。

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