イブラーヒーム・イブン・アル＝アシュタル

イブラーヒーム・イブン・マーリク・アル＝アシュタル：アリー家支持派の勇将

イブラーヒーム・イブン・マーリク・アル＝アシュタル（691年没）は、正統カリフのアリー・イブン・アビー・ターリブを支持し、後にムフタール・アッ＝サカフィーやアブドゥッラー・イブン・アッ＝ズバイルに仕えたアラブの将軍です。彼はウマイヤ朝に対する抵抗勢力として、その名を歴史に刻みました。

生い立ちと家族

イブラーヒームは、アリーの支持者であり、正統カリフ軍の将軍であったマーリク・アル＝アシュタルの息子として生まれました。一家はナハ族に属し、イブラーヒーム自身もアル＝ナハイーのニスバ（由来名）を持ちます。ナハ族は、カフターン部族に属するマズヒジュ族の一部族でした。異父兄弟のアブドゥッラフマーン・イブン・アブドゥッラー・アル＝ナハイーも軍人であり、イブラーヒームと共に657年のスィッフィーンの戦いでアリーに味方し、ウマイヤ家と戦いました。

ムフタールとの連携とハーズィルの戦い

イブラーヒームは、アリー家支持派の指導者ムフタール・アッ＝サカフィーの下で頭角を現しました。685年にムフタールがクーファの支配権を掌握すると、ウバイドゥッラー・イブン・ズィヤード率いるウマイヤ朝軍が侵攻してきます。ムフタールは、イラクへの侵攻を防ぐため、ペルシア人のマワーリー（被征服民のイスラーム改宗者）を中心とする部隊をイブラーヒームに託しました。

イブラーヒームは軍を率いて北上し、686年のハーズィルの戦いでウマイヤ朝軍と激突します。この戦いでイブラーヒームは、ウマイヤ朝軍に壊滅的な打撃を与え、ウバイドゥッラーを討ち取るという大戦果を挙げました。さらに、フサイン・イブン・ヌマイルなど、他の高位の指揮官も討ち取りました。イブラーヒームは、討ち取った指揮官たちの首をムフタールに送り、ムフタールはそれらをマディーナとイラクの一部を支配していたアブドゥッラー・イブン・アッ＝ズバイルの下へ送りました。

ズバイル家への亡命と最期

687年、イブラーヒームはハーズィルの戦いの勝利後、ムフタールによってモスルの総督に任命されます。しかし、ムフタールとその支持者たちは、アブドゥッラー・イブン・アッ＝ズバイルの弟であるムスアブ・イブン・アッ＝ズバイルによってクーファを包囲され、ムフタールは包囲戦で命を落としました。

ムフタールの死後、ウマイヤ朝のカリフ、アブドゥルマリク・イブン・マルワーンはイブラーヒームをウマイヤ朝側に引き入れようとしましたが、イブラーヒームはこれを拒否し、ズバイル家へ亡命します。691年10月、イブラーヒームはムスアブと共にマスキンの戦いでウマイヤ朝軍と戦いますが、敗北し、戦死しました。彼の遺体はウマイヤ朝軍によって焼却されました。この戦いでズバイル家の勢力は衰退し、ウマイヤ朝はイラクを再征服することになります。

評価

歴史家のヒュー・ナイジェル・ケネディは、イブラーヒームを「マルワーン家によるウマイヤ朝統治下時代（684年 - 750年）にクーファが生んだ最も才能のある将軍」と評しています。

イブラーヒームの息子であるヌゥマーンは、後にマズヒジュ族の軍の指揮官となり、720年のヤズィード・イブン・アル＝ムハッラブによるウマイヤ朝に対する反乱の際には、ヤズィードのクーファにおけるアサド族部隊の指揮官を務めました。

イブラーヒーム・イブン・マーリク・アル＝アシュタルは、その勇猛さとリーダーシップによって、歴史に名を残すことになったのです。

もう一度検索