イベリア (アルベニス)

イサーク・アルベニス《イベリア》：スペインの魂を映すピアノ曲集

《イベリア、12の新しい印象》は、スペインの作曲家イサーク・アルベニスが1905年から1908年にかけて作曲したピアノ曲集です。全12曲は3曲ずつ4巻に分けて出版され、アルベニス自身が病身を押して完成させた、まさに渾身の作品と言えるでしょう。南スペイン、アンダルシア地方の民俗音楽に深く根ざしたこの曲集は、ドビュッシーやメシアンといった同時代の巨匠からも絶賛されました。また、ラヴェルが管弦楽編曲を試みたものの、アルボスに権利を譲ったという逸話も残っています。

初演と構成

《イベリア》全曲の初演は、アルベニスの高弟であるピアニスト、ブランシュ・セルヴァによって行われました。各巻の初演日は以下の通りです。

第1巻：1906年5月9日、サル・プレイエル
第2巻：1907年9月11日、サン＝ジャン＝ド＝リュズ
第3巻：1908年1月2日、パリのポリニャック侯爵邸
第4巻：1909年2月9日、パリの国民音楽協会

全曲演奏には約80分を要します。

各巻の解説

第1巻

エボカシオン (Evocación)：スペイン語で「魂を呼び戻す」という意味を持つこの曲は、変イ短調という珍しい調で書かれ、重厚な雰囲気を持ちます。
港 (El Puerto)：自筆譜に「カディス」と記されており、カディスの港を想起させます。スペインのリズムが特徴的な、描写的な一曲です。
セビーリャの聖体祭 (Corpus-Christi en Sevilla)：技巧的な《イベリア》の中でも、特に高度な技術が求められる曲です。スペイン民謡《ラ・タララ》の旋律を用いて、遠近法的な描写がなされています。

第2巻

ロンデーニャ (Rondeña)：マラガ地方のロンダを想起させる、フラメンコに影響を受けた舞曲です。フラメンコのロンデーニャとは異なります。
アルメリーア (Almería)：印象派的な書法で書かれた、穏やかながらも終盤で盛り上がりを見せる曲です。演奏時間は《イベリア》の中で最長です。
トゥリアーナ (Triana)：セビーリャの地区名がタイトルとなった、フラメンコ調の舞曲です。演奏時間が短いため、単独で演奏されることも多いですが、技巧的に非常に難易度が高いです。

第3巻

エル・アルバイシン (El Albaicin)：グラナダの古い地区、アルバイシンを題材にした曲です。『スペインの歌』との関連も指摘されています。
エル・ポロ (El Polo)：アンダルシアの舞曲、ポーロを題材にしています。単調なリズムとメロディーの中に、多彩な和声が用いられています。
ラバピエス (Lavapiés)：マドリッドの地区名がタイトルに付けられていますが、アンダルシアのタンゴのリズムが使われています。《イベリア》の中でも最も難しい曲の一つです。

第4巻

マラガ (Málaga)：地中海の港町、マラガを舞台にした曲です。舞曲マラゲーニャの雰囲気が感じられます。
ヘレス (Jerez)：フラメンコで有名な街、ヘレスを題材にした曲で、静謐な雰囲気が特徴です。
エリターニャ (Eritaña)：セビーリャの城門外にある宿屋の名前が由来で、数種類のセビーリャ舞曲が繰り返されます。ドビュッシーが「音楽がかくも多様な表現に達したことはなかった」と絶賛した曲です。

編曲版

アルベニス自身も管弦楽編曲を計画しましたが、完成には至りませんでした。その後、エンリケ・フェルナンデス・アルボスが5曲を、カルロス・スリナッチが残りの7曲を編曲しました。その他、多数の編曲版が存在します。ギター編曲も有名です。

まとめ

《イベリア》は、アルベニスの情熱とスペインへの深い愛が込められた、ピアノ音楽史に残る傑作です。その多彩なリズム、色彩豊かな和声、そして高度な技巧は、聴く者を魅了し、スペインの風景を目の前に描き出すかのようです。

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