国民音楽協会

国民音楽協会

国民音楽協会（Société Nationale de Musique）は、1871年2月25日、フランスの音楽文化の振興と、フランス人新進作曲家の作品を世に広めることを目的に設立された団体です。その標語はラテン語で「ガリアの芸術」を意味する「Ars gallica」でした。

設立の背景

協会の設立は、当時のフランスが置かれていた状況と深く結びついています。普仏戦争（1870年 - 1871年）での敗北は、フランス国民に大きな衝撃を与え、強いナショナリズムを呼び起こしました。国民音楽協会が設立当初、会員資格をフランス国籍者に限定し、フランスの存命作曲家の作品のみを演奏対象とした方針は、この高まる愛国心を反映したものでした。また、当時のフランス音楽界がオペラや舞台作品に偏重し、管弦楽曲や室内楽曲といった器楽曲の作曲家が十分に評価される機会が少なかったことも、協会の設立を後押しする要因となりました。器楽曲の発展を目指す音楽家たちの間で、現状を打破しようとする機運が高まっていたのです。

概要と活動

協会の発起人はロマン・ビュシーヌとカミーユ・サン＝サーンスで、両名が共同総裁を務めました。設立当初からの会員には、セザール・フランク、エルネスト・ギロー、ジュール・マスネ、ガブリエル・フォーレ、エドゥアール・ラロ、ジョルジュ・ビゼーといった、後にフランス音楽を代表する作曲家たちが名を連ねています。協会は、ドイツ音楽の伝統とは異なり、声楽曲や舞台音楽が主流だったフランスの状況に対して、器楽作品に焦点を当てる姿勢を鮮明にしました。

最初の演奏会は1871年11月17日に開催され、フランクの《ピアノ三重奏曲 変ロ長調》、サン＝サーンスの《英雄行進曲》など、会員の作品が初演されました。協会の演奏会は、管弦楽作品はサロン・プレイエルやサル・エラールで、オルガン作品は教会で行われるなど、会場を使い分けていました。資金は限られていましたが、サラサーテやイザイといった国際的な名声を持つ演奏家が出演するなど、質の高い演奏を提供しました。

1880年代に入ると、協会の方針に変化が見られ、初めてフランス以外の作曲家の楽譜も受け入れられるようになります。エルネスト・ショーソンは1883年から死去するまで書記長として運営に関わりました。世紀末にかけては、クロード・ドビュッシーやモーリス・ラヴェルなど、次世代を担う若い作曲家たちが会員に加わりました。

内部対立とその後

協会の活動が続く中で、外国人作品の扱いを巡って内部に対立が生じました。1886年には、保守的な立場をとるサン＝サーンスと、フランクやヴァンサン・ダンディらの間で決定的な意見の相違が生まれ、サン＝サーンスは辞任しました。フランクが新たな総裁に選ばれましたが、1890年に死去するとダンディがその後を引き継ぎました。一部の会員、特にラヴェルは協会との関係が悪化し、独立して新たな音楽協会（独立音楽協会）を設立する出来事もありました。

一時期は新作の発表が減るなど活動が停滞しましたが、1930年代にオリヴィエ・メシアンら新しい世代の作曲家が加入したことで、協会は再び活気を取り戻しました。

成果

国民音楽協会の演奏会を通じて、数多くの重要なフランス音楽作品が初演されました。例えば、サン＝サーンスの交響詩『オンファールの糸車』（1871年）や『ファエトン』（1873年）、フランクの交響詩『呪われた狩人』（1883年）、ドビュッシーの『牧神の午後への前奏曲』（1894年）、ポール・デュカスの交響詩『魔法使いの弟子』（1898年）などがあります。室内楽の分野でも、1909年までに150曲を超える作品が協会によって初演されています。

これらの活動は、結果としてフランスにおける器楽、特に管弦楽や室内楽の分野の隆盛に極めて大きな役割を果たしました。協会は、フランス人作曲家が新しい表現を追求し、その作品を発表するための重要なプラットフォームとなったのです。

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