イベリアトゲイモリ

イベリアトゲイモリ（Pleurodeles waltl）

イベリアトゲイモリは、イモリ科トゲイモリ属に分類される有尾類で、その名の通りイベリア半島に生息する大型のイモリです。特徴的な外見と生態から、ペットとしても、また研究対象としても注目されています。

分布

イベリアトゲイモリは、スペイン南部、ポルトガル南部、そしてモロッコ北西部に分布しています。特にイベリア半島の個体は大型化する傾向があります。

形態

全長は17cmから20cm程度ですが、最大で30cmに達することもあり、イモリ科の中では最大種です。体色は灰褐色で、黒い不定形の斑点が入ることが一般的です。胴体に比べて頭部が扁平なのが特徴です。

イベリアトゲイモリの最大の特徴は、その防御方法にあります。外敵に襲われると、皮膚から肋骨の先端を突き出し、オレンジ色のイボが並ぶ部分で相手を刺して毒を注入します。肋骨が皮膚を突き破るという大胆な防御行動は、一見すると自傷行為のようにも見えますが、イモリの高い再生能力によって、この行動で死ぬことはありません。また、繁殖期のオスは前肢が太くなるという特徴もあります。

生態

イベリアトゲイモリは、水草が生い茂った流れの緩やかな河川や湖、池沼などに生息しています。水棲であり、主に水中で生活しますが、生息場所の水が干上がると岩の間などに潜り込んで休眠します。食性は動物食で、昆虫類、ミミズ、他の両生類やその幼生などを捕食します。

繁殖形態は卵生で、周年繁殖します。メスは水草などに200個以上の卵を1個ずつ産みつけます。オスはメスを下から抱き上げるような独特の求愛行動を行います。

人間との関係

イベリアトゲイモリは、その独特な外見と飼育のしやすさから、ペットとしても人気があります。日本にも輸入されており、主に人工繁殖された個体が流通しています。アルビノやリューシスティックなどの品種も固定されています。飼育には水量のあるアクアリウムやアクアテラリウムが適しており、大型種のためやや大型のケージが必要になります。餌は、冷凍イトミミズやユスリカの幼虫（アカムシ）などの生餌を好みますが、人工飼料にも餌付くため、比較的飼育は容易です。また、有尾類の中では高水温にも強いとされていますが、30℃を超えるような高温での飼育は避けるべきです。飼育下での繁殖も容易ですが、周年繁殖するため、繁殖をコントロールする必要がある場合は、雌雄を分けて飼育するなどの対策が必要です。

イベリアトゲイモリは、成長が早く、1年程度で成熟すること、また実験室内でも飼育が容易であること、周年繁殖が可能なため常に受精卵が得られることから、生物学の研究動物としても利用されています。2019年には、日本の研究チームがイベリアトゲイモリの網羅的な遺伝子カタログを作成したことを発表しています。

参考文献

千石正一監修 長坂拓也編『爬虫類・両生類800図鑑』、ピーシーズ、2002年、314頁。
『小学館の図鑑NEO　両生・はちゅう類』、小学館、2004年、24頁。
山崎利貞 『爬虫・両生類ビジュアルガイド　イモリ・サンショウウオの仲間 有尾類・無足類』、誠文堂新光社、2005年、81頁。

外部リンク

2007 IUCN Red List of Threatened Species

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