ユスリカ

ユスリカとは

ユスリカ（揺蚊）は、ハエ目（双翅目）・糸角亜目・ユスリカ科（Chironomidae）に属する昆虫の総称です。幼虫が体を揺するように動かすことから、この和名が付けられました。世界中で約1万5000種、日本だけでも約2000種が確認されており、水生昆虫の中では非常に多くの種数を誇ります。

生息場所

ユスリカの幼虫は、その大部分が水生で、川、池、湖沼など、ほとんどあらゆる淡水域に生息しています。他にも、海の潮間帯に棲むもの、陸生のもの、水辺の朽木の中や土壌中に棲む半水生的なものもいます。さらに、水生昆虫や貝類に寄生する特殊な種も存在します。釣りの餌や観賞用高級金魚の生餌として使われるアカムシは、オオユスリカやアカムシユスリカなどの幼虫です。

成虫の特徴

成虫は蚊によく似た外見をしていますが、人を刺すことはありません。また、蚊のような鱗粉も持っていないため、叩いても黒っぽい粉が肌に付くことはありません。ユスリカは、しばしば川や池の近くで蚊柱を作ります。アフリカのマラウイ湖では、その蚊柱が数十メートルの高さにまで達することもあります。

蚊との違い

ユスリカは見た目が蚊に似ていますが、科が異なります。蚊のように動物や人を刺したり、血液を吸うことはありません。翅は2枚で、後翅は平均棍という器官に変化しています。成虫は小型で、体長は0.5mmから1cm程度です。オスの触角はブラシ状で、メスとは異なり、雌雄で体の色が異なる種もいます。成虫には口器がなく、消化器も退化しているため、餌を摂ることができません。

幼虫の特徴

ユスリカの幼虫は、アカムシまたはアカボウフラと呼ばれますが、蚊の幼虫であるボウフラとは大きく異なります。細長い円筒形で、付属肢はありません。頭部には眼、触角、大腮などの器官があり、これらは幼虫の分類に用いられます。口のすぐ後ろには前擬脚、腹部末端には1対の脚があり、それぞれ体を固定するのに役立っています。また、体の後端には通常、数対の肛門鰓があり、一部の種では腹部に血鰓を持つものもいます。

幼虫の生息場所

ユスリカの幼虫は、川や用水路などで発生し、特に生活排水で汚れたドブ川では大量発生することがあります。しかし、種数からすると、ドブに住むものはごく一部で、富栄養化の進んでいない普通の川や池沼、清流にも多く生息します。ウミユスリカ類の幼虫は、潮間帯やサンゴ礁に棲み、その他、渓流の落ち葉の中や岩の上に棲管を張り付かせるもの、土壌中に棲むものなど、様々な生息場所が確認されています。巣を作る種もおり、中にはトビケラの幼虫に似た可携巣を作るものもいます。

幼虫の食性

ユスリカの幼虫は、デトリタス（有機物の破片）を食べるものが多いと考えられていますが、肉食のものや他の水生昆虫に寄生するものも存在します。蛹は蚊のオニボウフラを細長くしたような姿で、水面で羽化します。

成虫の生態

羽化した成虫は、川の近くで柱状に集まって飛ぶ「蚊柱」を作ります。蚊柱は、1匹のメスと多数のオスで構成されており、これは群飛と呼ばれる行動です。成虫は交尾と産卵を終えるとすぐに死んでしまい、寿命は長くても数日程度です。

人間との関わり

害虫としての側面

ユスリカは人を刺すことはありませんが、幼虫が生活排水による川の富栄養化によって大量発生すると、生活に悪影響を及ぼします。川の近くの住宅では、洗濯物を干したり窓を開けたりすることが困難になる場合があります。また、洗濯物などに止まったユスリカを潰すと、黄色い体液が洗濯物に付着することがあります。

アレルギーの原因

ユスリカを抗原としたアレルギー性鼻炎や「ユスリカ喘息」と呼ばれる呼吸器疾患も知られています。これは、ユスリカの死骸が風化して微細な粒子となり、空気中に浮遊したり家屋内に堆積したものを人が吸い込むことで起こります。また、小型のユスリカが直接眼や口に飛び込むことで炎症を起こす可能性もあります。

各地の問題

ユスリカの大量発生は、全国各地の川や公園、湖沼などで問題となっており、各自治体は対策に苦慮しています。琵琶湖や霞ヶ浦、諏訪湖などでは、ユスリカの大発生がよく知られており、琵琶湖では「ビワコムシ」という俗称まで生まれています。

有益な側面

一方で、ユスリカは指標生物としての利用価値があり、幼虫は泥中や水中の有機物を消費し、成虫となって水外に飛び去ることで、水質を改善する側面もあります。また、成虫は1gあたり最大5kcalのエネルギーを持つことが確認されています。

環境指標としてのユスリカ

ユスリカは、富栄養化した水域で特に多く発生しますが、完全に汚染された水域では発生しません。そのため、ユスリカの生息状況は、川の汚染状態を測る自然のバロメーターとして利用できます。赤いユスリカの幼虫が生息する環境は、富栄養化が進んでいると判断できます。渓流に生息するユスリカは、緑色や茶色であることが多いです。

その他の特徴

ユスリカは、人の頭の上に蚊柱を作ることがあり、その際、人が移動しても蚊柱がついてくることから「頭虫」と呼ばれることもあります。また、不快害虫として扱われることもあります。

教育や研究での利用

ユスリカは、高等学校理科の教材として、唾腺染色体の観察によく用いられます。また、幼虫のアカムシは、乾燥または冷凍された状態で、釣り餌や観賞魚の餌として利用されています。

食用としての利用

アフリカのヴィクトリア湖沿岸では、大量発生するユスリカをハンバーグのように固めて焼いて食べる習慣があります。

近年の状況

2017年には、琵琶湖でユスリカが例年より大量発生しましたが、「害虫」とまではいえないため、駆除は住民の自助努力とされました。

分類

ユスリカは、主に以下の亜科に分類されます。

モンユスリカ亜科
ヤマユスリカ亜科
ユスリカ亜科
エリユスリカ亜科
チリーユスリカ亜科
クロバネユスリカ亜科
フタオユスリカ亜科
トゲユスリカ亜科
ケブカユスリカ亜科
イソユスリカ亜科
オオヤマユスリカ亜科

系統

分子系統解析に基づくと、ユスリカは系統樹を形成しているとされています。

俳句

蚊柱は夏の季語として使われます。

夕立の来て蚊柱を崩しけり - 正岡子規
一つ二つから蚊柱となりにけり - 小林一茶

脚注

この文章は、以下の文献を参考に作成しました。

近藤繁生・平林公男・岩熊敏夫・上野隆平編　『ユスリカの世界』　培風館、2001年
日本ユスリカ研究会『図説 日本のユスリカ』文一総合出版、2010年

関連項目

カ
チョウバエ
ツツガムシ

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