イヤール

イヤール（アヤル）について

イヤール（ヘブライ語: אִיָּר‎、英語: Iyar）は、ユダヤ暦において数えられる月の名称の一つです。この月は、暦の中で特定の期間を示すために用いられます。

名称の由来と歴史

「イヤール」という名前は、古代メソポタミアで使用されていたバビロニア暦に由来すると考えられています。ユダヤの人々がバビロン捕囚を経験する以前の時代には、この月は「ジブ（זיו）」という別の名称で呼ばれていました。ジブとはヘブライ語で「輝き」や「光沢」を意味し、春の盛りであるこの時期の様子を表していたと推測されます。バビロン捕囚からの帰還以降、バビロニアの影響を受けて「イヤール」という呼称が定着したと考えられています。

暦における位置づけ

ユダヤ暦には、現代イスラエルで主に行われている「政治暦」と、宗教的な目的で用いられる「宗教暦」という二つの計算方法があります。政治暦では、ティシュリー月を年の始まりと数えるため、イヤールは第八番目の月にあたります。一方、宗教暦では、ニサン月を第一の月と定めるため、イヤールは第二番目の月として位置づけられます。この暦法上の違いは、ユダヤ暦を理解する上で重要な点です。

期間とグレゴリオ暦との対応

イヤール月は、常に29日間で構成される「ケシダー」（通常の月）です。月の長さは固定されており、閏年などによって変動することはありません。西暦、つまりグレゴリオ暦と比較した場合、イヤール月は通常、4月下旬から5月にかけての期間に相当します。具体的な日付はユダヤ暦とグレゴリオ暦の年のサイクルによって変動しますが、春の盛りから初夏にかけての時期にあたります。

イヤール月に巡る主な行事

イヤール月には、現代イスラエル国家やユダヤ民族の歴史において重要な意味を持ついくつかの記念日や祝祭日が集中しています。以下にその一部を挙げます。

イヤール 4日 - イスラエル戦没者記念日（ヨム・ハジカロン）: イスラエル建国のために命を捧げた兵士やテロ犠牲者を追悼する日です。
イヤール 5日 - イスラエル独立記念日（ヨム・ハアツマウート）: 1948年のイスラエル建国宣言を記念する日です。戦没者記念日の翌日に設定されており、追悼から独立の喜びに移るという流れがあります。
イヤール 14日 - ペサハ・シェイニー: ペサハ（過ぎ越しの祭り）を規定どおりに行えなかった人々のために設けられた「第二のペサハ」です。現代ではあまり広く祝われることはありませんが、特別な機会に位置づけられています。
イヤール 18日 - ラグ・バオメル: オメル数えの期間中にある祝祭日です。様々な歴史的出来事や神秘的な出来事と関連づけられており、焚き火を囲んだり、弓矢で遊んだりして祝われます。
* イヤール 28日 - エルサレムの日（ヨム・エルシャライム）: 1967年の第三次中東戦争で、東エルサレムがイスラエルによって「再統一」されたことを記念する日です。ユダヤ教徒にとって聖地であるエルサレム全体に対するイスラエルの主権を祝います。

これらの行事は、ユダヤ民族の歴史、信仰、そして現代イスラエル国家の歩みを反映しており、イヤール月を特別な時期としています。

イヤール月は、単なる暦の区分ではなく、古代の呼称に歴史的背景を持ち、二つの暦体系の中で異なる位置を占め、さらに現代イスラエルの国民生活やユダヤ教の慣習において重要な行事を含む、多様な側面を持つ月であると言えるでしょう。

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