イラクの国章

イラクの国章：歴史と変遷

イラクの国章は、その国の歴史と政治的変遷を色濃く反映したデザインとなっています。20世紀の汎アラブ主義運動の中で重要なシンボルとなった金の鷲、特に「サラディンの鷲」をモチーフにしている点が特徴です。この鷲は、アラブ世界の統一と連帯の象徴として、多くの国で国章に採用されてきました。

デザインの構成

現在のイラク国章は、金の鷲が胸にイラク国旗の図柄が描かれた盾を抱え、足のかぎづめで「イラク共和国」とアラビア語で記された帯を掴んでいます。このデザインは、イラクの国家としてのアイデンティティと、アラブ世界におけるその位置を象徴的に表しています。

歴史的変遷

イラクの国章は、その成立から現在に至るまで、数々の変遷を経験してきました。

1958年：共和国成立時

アブドルカリーム・カーシム准将によるクーデター（7月14日革命）後、イラク共和国が成立した際に、最初の国章が制定されました。この時の国章は、星と小麦の穂を組み合わせたシンプルなデザインでした。これは、新生共和国の平和と繁栄への願いを象徴していました。
1965年：汎アラブ主義の影響

1963年に汎アラブ主義を掲げるバアス党が政権を掌握すると、エジプト（アラブ連合共和国）やシリアとの統合を模索する中で、1965年にはエジプトの国章と共通する鷲のデザインが採用されました。これは、アラブ世界の統一を目指す当時の政治的背景を反映したものでした。この時、国旗の図柄は縦に描かれ、「アラーフ・アクバル」の文字はまだ含まれていませんでした。
1991年：国旗の変更

1991年の新国旗制定後、国旗の図柄は横書きに変更されました。しかし、この時点ではまだ国章自体の大きな変更はありませんでした。
2004年：サダム政権崩壊後

2003年のイラク戦争を経てサダム政権が崩壊した後、2004年4月26日には新国旗とともに、国章のデザインも変更されました。「アッラーフ・アクバル」の文字がクーフィー書体で記されるようになり、宗教的な要素が強調されました。
2008年：現在の国章

2008年1月22日、現在の国章が制定されました。この変更では、バアス党時代を象徴する三つの緑の星が取り除かれました。これは、過去の政治体制との決別と、新たなイラクの方向性を示すものでした。

まとめ

イラクの国章は、そのデザインと変遷を通じて、イラクの複雑な歴史と政治的変動を物語っています。汎アラブ主義の象徴である鷲を中心に、時代の変化とともに様々な要素が加えられ、そして取り除かれてきました。国章は、単なる紋章としてだけでなく、イラクの国家としてのアイデンティティを表現する重要なシンボルとして、国民に共有されています。

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