イランの映画

イラン映画：革命と詩の狭間で生まれた独自の映像表現

イラン映画は、イラン国内で制作され、イラン人スタッフと俳優によって生み出される映画作品群を指します。20世紀初頭、映画技術がイランに導入されて以降、独自の進化を遂げ、1980年代後半からは国際的な評価を獲得するようになりました。

イラン映画の歴史：変革と発展の軌跡

イランにおける映画の歴史は、1900年に遡ります。カージャール朝の宮廷カメラマンがパリで映画撮影機材を入手し、君主の海外訪問を撮影したのが始まりです。その後、映画館の建設や映画学校の設立など、着実に映画産業は発展していきました。

しかし、1979年のイラン革命は、イラン映画界に大きな影響を与えました。革命後、政府による検閲が強化され、映画制作は厳しい制限を受けることとなります。この状況下で、イランの映画作家たちは、社会問題への関心を表現しつつ、検閲を巧みに回避する手法を編み出していきました。子供を主人公にする、比較的宗教的な制約の少ない年少の男子を主人公に選定するなど、様々な工夫が凝らされました。

革命前、イラン映画はインド映画やハリウッド映画の影響を受けた娯楽作品が主流でしたが、革命後は大きく様変わりしました。アッバス・キアロスタミーやモフセン・マフマルバフといった革新的な監督たちが登場し、社会問題や人間の心理を繊細に描き出す作品を数多く生み出しました。彼らは、ヨーロッパの映画資本と積極的に連携し、国際的な映画祭で作品を発表、高い評価を得ました。

一方で、エブラヒム・ハタミキアのような監督は、娯楽映画やアクション映画を制作し、国内で高い人気を博しました。しかし、これらの作品は、国際的な映画祭や一部の映画館を除き、世界的に広く公開される機会は限られています。

イラン映画の特徴：ドキュメンタリーとフィクションの融合

イラン映画は、低予算ながら国際的に高い評価を得ている点が大きな特徴です。その独特の表現方法は、ドキュメンタリーとフィクションの境界を曖昧にする手法、映画製作過程と現実世界との関わり方、そして映像表現に潜む曖昧性・多様性を活かしたメッセージ性の高さにあります。

多くのイラン映画では、ジェンダーや家族といった普遍的なテーマが、イラン社会特有の視点から問い直されています。また、素人俳優の起用や詩の引用もイラン映画の特徴として挙げられます。これらの要素が複雑に絡み合い、イラン映画に独特の深みと魅力を与えています。

イラン映画を代表する監督たち

イラン映画界を代表する監督たちは、その才能と革新的な視点で、世界中の映画ファンを魅了し続けています。アッバス・キアロスタミー、モフセン・マフマルバフ、アボルファズル・ジャリリ、マジッド・マジディ、アスガル・ファルハーディーなど、数多くの監督が、イラン映画の国際的な地位確立に貢献しました。彼らの作品は、イランの文化や社会、そして人間の普遍的な感情を、美しい映像と詩的な表現によって描き出しています。

日本のイラン映画受容

日本では、イラン革命後、特に1980年代後半以降、イラン映画が紹介される機会が増えました。しかし、娯楽作品は限られた上映にとどまる傾向があります。一方、キアロスタミらの作品は、アート系映画館を中心に上映され、高い評価を得ています。

まとめ

イラン映画は、政治的・宗教的な制約の中で独自の表現方法を模索し、国際的な評価を得るまでに至りました。ドキュメンタリーとフィクションの融合、詩的な映像、そして社会問題への鋭い洞察が特徴です。これからも、イラン映画界から、世界を驚かせるような作品が生まれることに期待したいです。

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