イランの法制

イランの法制度：イスラム法と近代法制の融合

イランの法制度は、1979年のイスラム革命以降、独自の発展を遂げてきました。イスラム法学者である最高指導者を国家元首とするなど、イスラム的な側面が強調される一方で、民商事法分野においては欧州型の近代法制が採用されています。本稿では、イランの法制度の概要、統治機構、司法制度について解説します。

概要

イランの法制度を理解する上で重要なのは、イスラム法（シャリーア）と近代法制の融合です。革命後の憲法では、議会、大統領、裁判所による三権分立が定められていますが、国の基本方針を定める最高指導者、法律とシャリーアの適合性を審査する監督者評議会、最高指導者を選任する専門家会議といった機関が存在し、これらが統治機構の特色となっています。

イランの法体系では、シャリーアが憲法や議会の定める法律よりも上位に位置付けられ、シャリーアに適合しない法律は無効と解釈されます。ただし、シャリーアは裁判規範として直接適用される法源ではなく、制定法を介して適用される点が、サウジアラビアの法制とは異なります。また、法律制定においては、議会が相当の裁量を有しています。

法分野ごとの特徴

民事取引法

民事取引法分野においては、1930年前後にフランス法を参考に民法典（物権編、債権編、親族・相続編の3部構成）および商法典が制定され、イスラム革命後も大きな変更 없이現在まで存続しています。イスラム社会が私有財産制と私的自治を基礎としているため、近代の取引法制と基本的な発想が共通していることが背景にあります。

知的財産法

知的財産法制も同様に、フランス法の強い影響を受けており、特許・意匠・商標といった産業財産法制が一通り整備されています。制度が古いままであったり、運用面での課題は残ります。

刑事法

刑事分野においては、イスラム革命前にフランス・スイスの刑法を基礎とした大陸法系の刑法典が整備されていましたが、革命後に全面的に改正され、イスラム法が取り入れられました。殺人事件では被害者家族に刑罰の決定権が与えられ、窃盗事件での手首切断刑、姦通事件での石打ち刑などが存在します。革命後の刑法は、詐欺や通貨偽造などコーランに規定がないものについては刑罰規定を設けていないため、現代社会に対応したものになっていないという指摘もあります。

司法制度

イランの裁判所は、一般裁判所と特別裁判所に大別されます。一般裁判所は三審制を採用しており、第一審裁判所は民事事件と刑事事件を扱う裁判所に分かれています。民事事件を担当する裁判所には、家事事件の専門部が置かれています。裁判規範として適用される法規は基本的に制定法であるため、民商事取引の紛争に関する限り、裁判所の宗教色は強くないとされています。

特別裁判所としては、行政裁判所、軍事裁判所、革命裁判所、宗教者裁判所が存在します。革命裁判所は、国家安全保障や賭博、高利貸しなどに関わる犯罪を管轄し、宗教者裁判所は、宗教関係者の犯罪などを管轄します。

まとめ

イランの法制度は、イスラム法と近代法制が複雑に絡み合った独特の体系を形成しています。イスラム革命後のイランを理解する上で、法制度の理解は不可欠です。本稿が、イランの法制度に対する理解を深める一助となれば幸いです。

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