イスラム法学

イスラム法学（フィクフ）

イスラム法学（フィクフ）は、イスラム法（シャリーア）に対する法解釈学のことです。アラビア語の「フィクフ」は本来「理解」を意味し、イスラーム世界においては、アッラーが預言者ムハンマドを通して啓示したシャリーアを理解し、それを実践するために必要な知的努力を指します。

イスラム法学の構成

イスラム法学は、大きく以下の2つの分野に分けられます。

ウスール・アルフィクフ（法学の根）: 啓示から具体的な法規定を導き出すための方法論を研究する法理論
フルーウ・アルフィクフ（法学の分枝）: 導き出された法理論に基づいて定められた規定を研究する実定法（論）

実定法の分野は、さらに以下の2つに分類できます。

イバーダート: 礼拝など宗教儀礼に関する規定
ムアーマラート: 家族法、債権法、刑事法など人間社会に関する規定

これらの研究は、ファキーフと呼ばれるイスラム法学者によって行われます。

法源

法理論において、シャリーアの法源として認められているものには、以下の4つがあります。

1. コーラン: 最も上位に位置づけられる聖典
2. スンナ: 預言者ムハンマドの言行
3. イジュマー: イスラム共同体における法学者の合意
4. キャース: 類推を含む一定の推論

コーランとスンナは普遍的なものと考えられ、それらによって規定されていない部分に関してのみ、イジュマー以下のイジュティハード（知的努力）による解釈が認められています。

歴史的変遷と学派の形成

イスラム法は、ムハンマドの死後、ムスリムによる征服活動の結果、イスラムの教義に反しない範囲で従来の法が取り入れられました。イスラムに反する規定や規定そのものが存在しないものについては、イスラムの教義に沿う形で制定・改廃されていきました。こうした作業は10世紀にはほぼ形を整えられ、スンナ派の世界では、ハナフィー学派、マーリク学派、シャーフィイー学派、ハンバル学派の4つの法学派（マズハブ）が形成され、他の学派は異端とされるようになりました（シーア派など他の宗派では、それぞれの宗派独特の法学が発展しました）。

ただし、歴史的には、時の政治権力や地域の慣習法の影響を完全に排除することはできませんでした。

参考文献

柳橋博之「イスラム法学」（『新イスラム事典』（平凡社、2002年） ISBN 978-4-582-12633-4）
堀井聡江「イスラム法学」（『歴史学事典 11宗教と学問』（弘文堂、2004年） ISBN 978-4-335-21041-9）

関連項目

クルアーン主義
シャリーア
イランの法制
サウジアラビアの法制
パレスチナの法
インドネシアの法

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