イリア・ガラシャニン

イリヤ・ガラシャニン（1812年1月28日 - 1874年6月28日）は、19世紀のセルビア公国において、内政・外交両面で重要な役割を果たした政治家です。アレクサンダル・カラジョルジェヴィッチ公の時代には内相を務め、その後、ミハイロ・オブレノヴィッチ公の時代には首相兼外相として国政を主導しました。

ガラシャニンの政治家としての業績で特筆されるのは、1844年に作成した「ナチェルターニェ（構想）」と呼ばれる秘密文書です。この文書は、セルビアの外交政策の指針として作成され、オスマン帝国からのセルビア解放と、周辺のスラヴ民族を統合した「大セルビア」の建設を目標としていました。この構想は、後のバルカン半島の民族紛争に大きな影響を与え、「大セルビア主義」の基礎を築いたとされています。

内相としては、立憲主義の確立に尽力しました。当時のセルビアは、オスマン帝国の支配から脱却し、近代国家としての基盤を確立する必要がありました。ガラシャニンは、法制度の整備や行政機構の改革などを推進し、セルビアの近代化に貢献しました。

また、外相としては、バルカン連盟の結成に力を注ぎました。バルカン連盟は、オスマン帝国の影響力排除とバルカン地域の安定を目指し、セルビア、ギリシャ、モンテネグロ、ブルガリアなどが参加しました。ガラシャニンの外交手腕により、バルカン諸国は一時的に団結し、オスマン帝国に対抗することができました。その手腕から「バルカンのビスマルク」とも称されています。

ガラシャニンの政治思想や政策は、セルビアのナショナリズムの形成に大きな影響を与えました。彼の提唱した「大セルビア主義」は、20世紀のユーゴスラビア紛争の遠因ともなったと指摘されています。しかし、セルビアの近代化に貢献した功績は否定できません。

参考文献
柴宜弘「ガラシャニン」柴宜弘・伊東孝之・南塚信吾・直野敦・萩原直監修『東欧を知る事典（新版）』平凡社、2015年。ISBN 978-4-582-12648-8
柴宜弘『ユーゴスラヴィア現代史（新版）』岩波書店＜岩波新書＞、2021年。ISBN 978-4-00-431893-4

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