イリエワニ

イリエワニ（Crocodylus porosus）の詳細

イリエワニは、ワニ目クロコダイル科に属する大型のワニです。その分布域は広く、インド南東部から東南アジア、オーストラリア北部沿岸、さらにはカロリン諸島周辺まで及んでいます。海流に乗って移動する能力を持ち、地域によっては淡水域にも生息します。

形態

現生ワニ類の中でも最大級で、平均的な全長は4メートル、体重は450キログラムに達します。巨大な個体は7メートルに達することもあります。吻はやや長く、隆起や畝が発達しており、下顎の第一歯が上顎を貫通するのが特徴です。また、後頭鱗板がなく、頸鱗板は4枚、胴体背面の背鱗板は規則的に並びます。体色は緑褐色で、前肢の水かきは指の基部のみ、後肢は趾全体に発達しています。卵は長径約8センチメートル、短径約5センチメートルです。

生態

主に汽水域に生息し、入江や三角州のマングローブ林を好みます。海水への耐性が非常に高く、海流に乗って遠くの島へ移動することもあります。食性は動物食で、魚類、両生類、爬虫類、鳥類、哺乳類、甲殻類など幅広い獲物を捕食します。非常に攻撃的な性質を持ち、顎の力は同種中で最大級と言われています。大型個体は人間や家畜を襲うこともあります。また、効率的な餌場を記憶していることが報告されており、産卵期のウミガメを狙って浜辺で待ち伏せする行動も確認されています。

繁殖

繁殖形態は卵生で、主に雨季に木の枝や枯葉を積み上げた塚状の巣に60から80個の卵を産みます。卵は約80日から90日で孵化しますが、幼体は捕食されやすく、成体まで生き残れるのはごく少数です。

人間との関係

開発による生息地の破壊や皮革目的の乱獲により、生息数は減少傾向にあります。生息地では法的に保護の対象となっていますが、地域によって個体数の変動が見られます。特にオーストラリアでは保護政策により、近年個体数が増加しています。

イリエワニは、その攻撃性と貪欲さから「人喰いワニ」として恐れられています。フィリピンでは、巨大な個体が人を襲った事例が報告されており、「ロロン」という個体はギネスブックに「世界最大の捕獲されたワニ」として認定されました。太平洋戦争中のラムリー島の戦いでは、撤退中の日本軍兵士がイリエワニに襲われ、多数の犠牲者が出たという話がありますが、この話は現在疑問視されています。

まとめ

イリエワニは、その巨大な体躯と攻撃的な性格で知られるワニです。生息環境の悪化や乱獲によって個体数が減少している一方で、保護政策によって回復の兆しを見せている地域もあります。人間との共存を模索しつつ、今後の動向を見守る必要があります。

参考資料

今泉吉典、松井孝爾監修 『原色ワイド図鑑3 動物』、学習研究社、1984年
小原秀雄・浦本昌紀・太田英利・松井正文編著 『動物世界遺産 レッド・データ・アニマルズ6 オーストラリア、ニューギニア』、講談社、2000年
千石正一監修 長坂拓也編著『爬虫類・両生類800種図鑑 第3版』、ピーシーズ、2002年
両生爬虫類対策協議会 「CLOSE UP CREEPERS -注目の爬虫両生類-」『クリーパー』第43号、クリーパー社、2008年
『小学館の図鑑NEO 両生・はちゅう類』、小学館、2004年

外部リンク

環境省 特定動物リスト (動物の愛護と適切な管理)

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