イリタトル

イリタトル：ブラジル前期白亜紀の謎めいたスピノサウルス類

イリタトル( Irritator challengeri) は、約1億1000万年前、現在のブラジルに生息していたスピノサウルス科の獣脚類恐竜です。その名は、発見された頭骨が化石商によって改ざんされていたことに由来する、古生物学者の「苛立ち」を表しています。

イリタトルの発見と研究史

イリタトルの発見は、商業目的の化石発掘から始まりました。ブラジル北東部で発掘された巨大な頭骨は、当初翼竜と考えられましたが、のちに恐竜と判明しました。この頭骨は、違法にドイツの博物館に売却され、研究の対象となります。1996年、この頭骨はイリタトルのタイプ標本として記載され、スピノサウルス科に属する新種として認められました。しかし、頭骨の改ざんにより、初期の研究では誤った情報が含まれていました。2002年、より詳細な再記載が行われ、イリタトルの分類と形態がより正確に理解されるようになりました。

イリタトルとアンガトラマ：同一種か？

イリタトルと近縁と考えられるアンガトラマ(Angaturama limai)は、同じ地層から発見されたスピノサウルス科恐竜です。両者の頭骨は類似点が多く、同一種ではないかという説も存在します。しかし、保存状態や形態の差異などから、別種とする見解が近年有力となっています。どちらの説が正しいかについては、さらなる化石証拠が必要とされています。

イリタトルの生態

イリタトルは、全長6～8メートル、体重約1トンと推定される、スピノサウルス科の中では比較的小型の種です。上下に細長く、浅い吻部には、真っ直ぐな円錐形の歯が並び、魚食性だったと考えられています。しかし、二次口蓋や強い首の筋肉、比較的後方に位置する外鼻孔などは、ワニに似たジェネラリスト的な捕食スタイルを推測させる要素でもあります。イリタトルの化石からは、翼竜を捕食していた可能性を示唆する証拠も発見されています。

イリタトルの形態

イリタトルの頭骨は、長く、狭く、やや三角形をしています。特徴的なのは、頭頂部を走る矢状隆起で、強力な首の筋肉が付着していたと考えられています。歯は円錐形で、鋸歯状の構造はありません。また、二次口蓋の存在も注目すべき点です。

アンガトラマのホロタイプ標本は、吻部先端のみが知られています。ロゼット状に広がる吻部と、長い歯、高い鶏冠が特徴です。

イリタトルの後肢骨格に関する発見も進み、背中に帆を持っていた可能性が高いことが示唆されています。

イリタトルの分類

イリタトルは、当初はマニラプトル類に分類されていましたが、後にスピノサウルス科に分類が変更されました。スピノサウルス亜科に属し、近縁種にはアンガトラマ、バリオニクス、スピノサウルスなどが含まれます。

イリタトルの古環境

イリタトルが生息していたロムアルド累層は、沿岸のラグーン環境で、翼竜や魚類、ワニ、カメなど様々な生物が共存していました。イリタトルは、これらの生物を捕食していたと考えられています。

まとめ

イリタトルは、その発見から分類、生態まで、多くの謎に包まれた恐竜です。今後の研究により、その進化史や生態、アンガトラマとの関係性がさらに明らかになることが期待されます。化石発掘の違法性という問題も背景に、研究は困難を極めますが、これらの貴重な化石から、白亜紀の生物多様性や古環境について、多くの情報が得られるでしょう。今後の研究に期待したいところです。

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