イングランドの教育史

イングランドの教育史：ローマ時代から現代まで

イングランドの教育の歴史は、ローマ帝国の属州であったブリタンニア時代まで遡ります。アングロ・サクソン人の移住以降、教育制度は様々な変遷を遂げ、今日のイングランドの教育システムを形作ってきました。本稿では、中世から21世紀までのイングランド教育史を概観します。

中世

中世のイングランドでは、職業訓練は主に徒弟制度に依存していました。一方、ラテン語の文法を教える学校も設立され始め、オックスフォード大学とケンブリッジ大学という二つの名門大学もこの時代に創設されました。エドワード6世の治世には、より体系的な教育を目指してフリーグラマースクールが設立されました。これらの学校は、すべての人々にとって開かれた教育機関となることを理想としていましたが、現実には経済的な制約によって教育機会の格差が存在していました。

近世初期

16世紀から17世紀にかけて、パブリックスクールと呼ばれる私立学校が発展しました。多くは慈善事業として設立されたものの、次第に授業料を徴収するようになりました。エドワード6世はグラマースクールを再編・設立し、経済的に恵まれない生徒にも無料で教育を提供するシステムを構築しようと試みました。しかし、現実には経済的な格差が教育機会の不平等に繋がっていました。

この時代には、1564年の職人と徒弟の法が制定され、徒弟制度が法的枠組みの下に置かれました。また、1662年の礼拝統一法後には、国教会に反対する人々によって設立された非国教徒系の学校も存在しました。エリザベス救貧法の下では、貧困層の子供を支援するための小教区徒弟制度も運用されました。

この時代の大学や多くの学校では、ラテン語やギリシャ語などの古典的な科目が中心であり、文法教育に重点が置かれていました。女性は、dame school（女学校）やCharity school（慈善学校）などで初等教育を受けました。

18世紀

産業革命初期には、起業家たちが徒弟制度の制限に異議を唱え、多くの新しい産業が徒弟制度から除外されました。この時代、ロバート・レイクスによる日曜学校運動が始まりました。これは、工場労働で忙しい子供たちのために、日曜日に聖書教育を中心とした学校を提供する運動でした。この運動は、当初は批判もありましたが、次第に広がりを見せました。

19世紀

19世紀以前、学校は教会が運営するものが多く、宗教教育が重視されていました。イングランド国教会は政府による世俗教育の初期の試みに反対しました。1814年には、契約による強制的な徒弟制度が廃止されました。

1833年、イギリス議会は貧しい子供たちのための学校建設費用を決定し、政府が教育に関与し始める最初の機会となりました。1870年のフォスター法（小学校教育法）は、義務教育の導入への第一歩であり、5歳から10歳までの子供たちの就学義務が定められました。その後、義務教育の対象年齢は徐々に引き上げられ、1880年には5歳から10歳まで、1893年には11歳から13歳までとなりました。

この時代には、幼年学校の設立、非宗派学校の設立運動、グラマースクールのカリキュラム拡張など、教育改革の動きが活発化しました。1870年フォスター法の導入により、地域の教育委員会が設立され、学校への出席義務が定められました。1891年には無償教育法が制定され、学校教育費の一部が州費で支払われるようになりました。

1889年の技術院法は、技術教育の支援のための地方税導入を定め、技術教育の発展にも貢献しました。

20世紀前半

1902年のバルフォア法は、教会学校への資金提供を規定し、教育システムの一元化を促進しました。1918年のフィッシャー法は、14歳までの義務教育を定め、中等教育への国の関与を強めました。スペンズとノーウッドの報告書は、グラマースクールへの入学選抜方法について提言を行い、1944年のバトラー法へと繋がりました。

1944年のバトラー法

1944年の教育法（バトラー法）は、11歳を初等教育と中等教育の境界線とし、「三者分科制度」（グラマースクール、中等近代学校、中等技術学校）を導入しました。この制度は、生徒の能力や適性に基づいて学校を分けるものでした。

バトラー法は、宗教学校と国立学校との間の歴史的な妥協点であり、自主運営学校、自主援助学校、直接補助学校の三つの新しい学校の種類を設けました。また、卒業年齢を15歳に引き上げ、18歳までの若者への定時制教育の提供を目指しました。

戦後の教育改革

戦後、労働党政権下でバトラー法が施行されましたが、三者分科制度は批判を受けました。特に、文法学校への入学選抜試験は、エリート主義的であるとして問題視されました。これを受けて、総合学校が導入される動きが出てきました。

1965年の通達10/65は、三者分科制度を廃止し、総合学校への移行を促進するものでした。しかし、この通達には強い反対があり、移行は段階的に進められました。1973年には、卒業年齢が16歳に引き上げられました。

1979年以降

1979年から1997年までの保守党政権下では、職業教育の活性化や教育改革法の制定など、様々な教育改革が行われました。1997年以降の労働党政権下でも、教育改革は継続されました。

21世紀

21世紀に入り、イングランドでは卒業年齢の18歳への引き上げが議論され、2013年からの実施を目指した計画が発表されました。

まとめ

イングランドの教育史は、社会の変化と密接に関連しながら、制度・カリキュラム・教育機会の拡大を続けてきました。中世の徒弟制度から現代の多様な教育システムに至るまで、その発展の歴史は、イングランド社会の変容を反映していると言えるでしょう。今後の教育改革の動向にも注目が必要です。

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