インスティテューショナル・クリティーク

インスティテューショナル・クリティーク（制度・体制批判）とは

インスティテューショナル・クリティークとは、ギャラリーや美術館といった美術機関の仕組みに対する体系的な研究を指します。これは、単に作品そのものを評価するのではなく、その作品が展示される場所、つまり美術機関の内部構造、権力関係、運営方法、そしてそれが社会の中で持つ意味を批判的に考察する芸術的実践です。この概念は、1960年代後半から発展し、コンセプチュアル・アート、ポスト構造主義哲学、批判理論など、様々な思想的背景と関連しています。

制度批判の形態

インスティテューショナル・クリティークは、絵画、彫刻、建築的介入、パフォーマンスなど、多様な形態で表現されます。これらの作品は、既存の美術機関の枠組みを破壊し、観客に美術の背後にある制度的な側面を意識させることを目指します。例えば、ギャラリーの壁に直接描画する、美術館の床を掘り返す、あるいは美術館の設計者になりすますといった行為は、美術作品の自律性、展示空間の中立性、情報の客観性といった従来の概念に疑問を投げかけます。

歴史的背景

この運動は、ミニマリズムやフォーマリズム批評への反発、コンセプチュアル・アートの台頭といった美術界内部の動向と、1960年代後半の社会変革の動きが複合的に影響して誕生しました。ロラン・バルトやミシェル・フーコーといった思想家の影響を受け、作品の作者性、独創性、大衆文化、アイデンティティといった概念が問い直されました。また、ギャラリーや美術館を避け、自然の中に作品を制作するランド・アートの出現も、制度批判の発展に影響を与えました。

主なアーティストと作品

インスティテューショナル・クリティークの先駆者としては、マルセル・ブロータス、ダニエル・ビュラン、ハンス・ハーケ、マイケル・アッシャーなどが挙げられます。彼らの作品は、美術館の運営や美術市場の仕組みを批判的に考察しました。例えば、ニーレ・トローニはギャラリーの壁に直接絵筆で絵の具を塗り、クリス・バーデンは美術館の基礎を掘り起こしました。また、アンドレア・フレイザーは、美術館の設計者になりすますことで、美術館の権力構造を暴きました。

1980年代以降には、ルイーズ・ローラー、アントニ・ムンタダス、フレッド・ウィルソンらが、より多様なアプローチで制度批判を展開しました。1990年代には、リアム・ギリック、ドミニク・ゴンザレス・フェルスター、ピエール・ユイグらが、ギャラリーや美術館を社会的相互作用の場として捉え、参加型の作品を制作しました。近年では、マウリツィオ・カテラン、ティノ・セーガルらが、美術館の役割を問い直す作品を発表しています。

批評と課題

インスティテューショナル・クリティークは、美術界の権力構造を可視化する上で重要な役割を果たしましたが、同時にいくつかの批判も存在します。その一つは、作品の難解さです。制度批判的な作品は、専門的な知識を前提とするため、一般の観客には理解しにくい場合があります。また、一部の批評家からは、制度を批判するアーティスト自身が、その制度から利益を得ているという矛盾が指摘されています。

まとめ

インスティテューショナル・クリティークは、美術作品とその展示環境の両方を対象とする、複雑で多層的な芸術運動です。それは、美術が社会の中でどのように機能し、権力構造とどのように結びついているのかを問い続けることで、美術の可能性を広げようとする試みと言えるでしょう。この運動は、私たちに美術をより批判的に見つめる視点を提供し、美術と社会の関係についての深い洞察を与えてくれます。

参照文献

Meyer, James (1993), What Happened to the Institutional Critique? New York: American Fine Arts, Co. and Paula Cooper Gallery.
Buchloh, Benjamin (1999), Conceptual Art 1962–1969: From the Aesthetics of Administration to the Critique of Institutions," October 55: 105–143.
* Bryan-Wilson, Julia (2003), A Curriculum of Institutional Critique, in: Jonas Ekeberg, ed., New Institutionalism (Oslo: OCA/verksted), 89–109.

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