ランド・アート

ランド・アートとは

ランド・アート（land art）は、岩、土、木、鉄などの自然素材を使い、砂漠や平原といった広大な場所に作品を構築する美術のジャンルです。アース・アート（earth art）やアースワーク（earthworks）とも呼ばれますが、これらの区別は明確ではありません。ランド・アートは、自然そのものをキャンバスとし、そこに人間の痕跡を刻むことで、新たな芸術表現を生み出します。

ランド・アートの歴史

ランド・アートの起源は、古代のナスカの地上絵やピラミッドに遡ることができますが、現代的なランド・アートの先駆者としては、イサム・ノグチが挙げられます。彼は1933年、古墳や古代遺跡、日本庭園から着想を得て、「地球」を彫刻の素材とするアイデアを提唱しました。ノグチは、巨大な「顔」を盛り土で描く計画や、子供のための人工の山「プレイ・マウンテン」を提案し、彼の死後、後者は札幌市のモエレ沼公園で実現しました。

1960年代後半、アメリカの彫刻家たちがランド・アートを美術の潮流として確立しました。1968年、ニューヨークのドゥワン・ギャラリーで開催されたグループ展「Earthworks」は、その動きを加速させる重要な出来事でした。この時期、商業主義的な美術の動向に反発したアーティストたちは、広大な砂漠地帯を舞台に大規模な作品を制作し、大地に人為的な痕跡を残すことで、新たな芸術を創り出しました。

ロバート・スミッソンは、1970年にユタ州の湖沼に岩石と土で螺旋状の突堤「スパイラル・ジェティ」を制作し、マイケル・ハイザーはネバダ州の峡谷に巨大な溝を掘るなど、大規模な作品を手がけました。

ランド・アートは、本来、大地に直接構築されるべきものですが、作家によっては屋内に規模を縮小した作品を展示することもあります。これらの作品は、作家がランド・アート作家として認知されているかどうかで、通常のインスタレーション作品と区別されます。

ランド・アートは、設置場所に固有のサイトスペシフィック・アートという特徴を持つ一方で、環境アート（environmental art）とも共通する部分があります。環境アートは、都市空間を総合的にプロデュースしたり、五感にかかわるすべての要素を一体として設計・建築された作品を指します。

ランド・アートの思想的背景

ランド・アートは、ミニマル・アートやコンセプチュアル・アート、アルテ・ポーヴェラといった同時代の美術思潮と関連しています。ミニマル・アートの影響は、スミッソンやデ・マリアの作品の単純な形状に表れており、コンセプチュアル・アートの概念は、作品のアイデアが価値を決定するという点に共通しています。また、アルテ・ポーヴェラは、最小限の加工による自然素材の使用という点で、ランド・アートと共通性が見られます。

時代思潮としては、ケネディ・ジョンソン政権下のアメリカの拡大主義、既成秩序への反抗、大自然への回帰、科学技術への不信といった、当時のフラワー・チルドレン（ヒッピー）の志向性と共通するものがあります。ベトナム反戦運動が盛んな時期に「Earthworks」展が企画されたことも、この流れを象徴しています。

ランド・アートは、反体制主義的な側面を持つ一方で、巨大な作品を維持するには莫大な資金が必要です。ドゥワン・ギャラリーのオーナーであるヴァージニア・ドゥワンは、スミッソンやハイザーたちの重要なパトロンでした。

代表的なランド・アート作品

スパイラル・ジェティ

ロバート・スミッソンが1970年にグレートソルト湖に制作した「スパイラル・ジェティ」は、石と土で作られた全長457mの螺旋状の堤防です。制作時の水位が記録的に低かったため、数年に一度しか湖面に姿を現しません。

ダブル・ネガティブ

マイケル・ハイザーが1969年にネバダ州の無人のメサに制作した「ダブル・ネガティブ」は、長さ457m、幅39.1m、深さ15.2mの巨大な溝です。途中、崖をまたぐように掘られているため、二つに切断されています。

マイル・ロング・ドローイング

ウォルター・デ・マリアがモハーヴェ砂漠に制作した「マイル・ロング・ドローイング」は、3.6m間隔の二本の平行線です。これはチョークで描かれたものであり、現在では記録写真でのみ見ることができます。

ライトニング・フィールド

デ・マリアが1977年にニューメキシコ州の砂漠に制作した「ライトニング・フィールド」は、400本のステンレス製の誘雷ポールを格子状に並べた作品です。ポールの高さは、先端が同一平面上に収まるように調整されています。

シティ

マイケル・ハイザーが1972年から制作を開始した「シティ」は、ネバダ州の砂漠地にある大規模な作品ですが、完成時期は未定です。

ローデン・クレーター

ジェームズ・タレルが1977年から制作を開始した「ローデン・クレーター」は、アリゾナ州のローデン火山の噴火口を利用した作品で、制作プロセス自体が作品とみなされています。

マリー・マン

1998年にオーストラリアで発見された「マリー・マン」は、全長2.6kmにも及ぶ巨大な人型の地上絵です。誰が制作したのか不明であり、その制作方法も謎に包まれています。

作品の恒久性

ランド・アートの作品は、その素材や作家の意向、時には第三者の意向によって、恒久性が左右されます。「マイル・ロング・ドローイング」のように、記録写真でのみ存在するものもありますが、「ライトニング・フィールド」のように、設計段階から保存が前提とされている作品もあります。「スパイラル・ジェティ」は、遺族からディア財団に譲渡されましたが、その後も保存方針は不明確なままです。

ランド・アートの作家たち

ランド・アートの分野で活躍した主な作家は、以下の通りです。

荒川修作
アンディー・ゴールズワージー
池田一
イサム・ノグチ
ウォルター・デ・マリア
カール・アンドレ
柿崎順一
平川滋子
クリストとジャンヌ＝クロード
ソル・ルウィット
マドリン・ギンズ
マイケル・ハイザー
リチャード・ロング
ロバート・スミッソン
ロバート・モリス
ヴィトアコンチ
ベティ・ボーモント
ミルトン・ベセラ
クリス・ブース
エバーハルト・ボスレット
メルチン
ジャンヌ=クロード
ヤンディ・ベッツ
ルシアンデン・アレンド
アグネス・ディーンズ
ジム・デネバン
ハーヴェイ・ファイト
ナンシー・ホルト
マヤ・リン
デイヴィッド・ナッシュ
ジョージア・ペッパージョージ
ビバリー・ペッパー
アンドリュー・ロジャース
チャールズ・ロス
アラン・ソンフィスト
ジェームズ・タレル
ニルス・ウド
ビル・ヴァザン
セス・ウルスン
ヴィック・ムニーズ
関根伸夫
リチャード・シリング

まとめ

ランド・アートは、広大な自然を舞台に、人間の創造性と自然の力を融合させた芸術です。その多様な表現は、私たちに自然との関係を再考する機会を与え、現代アートの可能性を広げています。ランド・アートは、今後もその独創性と深い思想性で、私たちを魅了し続けるでしょう。

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