インテグリン結合キナーゼ

インテグリン結合キナーゼ（ILK）とは

インテグリン結合キナーゼ（ILK）は、インテグリンを介したシグナル伝達に重要な役割を果たすタンパク質です。ヒトではILK遺伝子によってコーディングされており、その異常は心筋症と関連しています。このタンパク質は59 kDaの大きさを持ち、インテグリンβ1をベイトタンパク質として用いた酵母ツーハイブリッド法によって発見されました。ILKは細胞の遊走、増殖、接着など、さまざまな細胞機能に関与しています。

ILKはRaf様キナーゼのサブファミリーに属しており、その構造はN末端に位置する5つのアンキリンリピート、ホスホイノシチド結合モチーフ、そしてC末端の触媒ドメインから成り立っています。ILK自体は酵素活性を持たず、インテグリンを介してシグナル伝達を行うためにはアダプタータンパク質に依存しています。特に、ILKはβ1およびβ3インテグリンの細胞質ドメインと結合します。

しかし、ILKのキナーゼ活性に必要なモチーフは未だ同定されておらず、その機能の解明は続いています。ILKは発生や組織の恒常性の調節に関与していると考えられているものの、ハエや線虫、マウスにおいては必須なキナーゼ活性は確認されていません。

ILKの動物における機能

動物において、ILKは筋肉の発達を制御するPINCH-parvin複合体に結合し、ILKが欠失したマウスは筋細胞の発生が行われず、胎児死亡に至ります。哺乳類においては、ILKは触媒活性を持たないものの、フォーカルアドヒージョンの足場タンパク質の機能をサポートします。興味深いことに、植物には複数のILK遺伝子が存在しており、進化上の違いも観察されています。

ILK1の植物での役割

特に植物においては、ILK1が多くの膜貫通受容体と相互作用しシグナル伝達の調節を行うことが知られています。ILK1は主に根系に存在し、細胞膜や小胞体に局在し、イオン輸送に関与しています。植物のILK1には明確なキナーゼ活性が認められ、浸透圧や塩ストレスの調節、さらには栄養素の取り込みと病原体の検知機能も担っています。

浸透圧・塩ストレスの応答

ILK1は高浸透圧ストレスに感受性があり、高塩濃度環境でも機能を維持する農作物の根の成長において重要な役割を果たします。高塩濃度の条件下でもILK1はカリウム（K+）の保持を助け、細胞内のK+濃度を安定させることが知られています。

栄養素の取り込み

K+は植物において浸透圧や膜電位を維持し、さまざまな生理的機能に不可欠です。ILK1はこのK+の取り込みを調節し、発生過程においても重要な役割を果たしています。特に、ILK1はカリウムの流入チャネルと相互作用し、植物の成長やストレス応答を調整します。

病原体の検知

加えて、ILK1は細菌病原体に対する耐性を高める機能も備えています。ILK1が活性化されると、細菌による感染に対する防御機構が強化されると考えられています。ILK1はMPK3やMPK6のリン酸化を介して免疫応答を促進し、植物が外的な脅威に対処するための重要な因子とされています。

このように、ILKおよびILK1は動植物において細胞の機能を多様に調節し、現在も多くの研究が進行中です。

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