インディアン・マスコット

「インディアン・マスコット」とは、アメリカ合衆国のプロおよびアマチュアスポーツチームが、インディアン民族をテーマにして採用しているチーム名やエンブレム、応援キャラクターなどの総称です。この慣習の起源は古く、18世紀には既に白人が催し物でインディアンに扮する光景が見られました。20世紀に入りスポーツが盛んになると、多くのチームがインディアンのイメージを取り入れるようになりました。

問題点と批判

こうした「インディアン・マスコット」に対しては、長年にわたりインディアン民族や識者から強い批判と抗議が寄せられています。主な問題点として、以下が挙げられます。

- 名称や意匠の差別性: 「レッドスキンズ」のような蔑称や、「サベージズ」「ブレーブス」「ファイティング・○○」といった野蛮さを強調するような単語がチーム名に使用されたり、インディアン男性の顔などがエンブレムに使われたりしています。特に「レッドスキンズ」は、インディアン虐殺の歴史や生首を連想させる言葉としても問題視されています。
- 文化の歪曲: マスコットキャラクター（「ワフー酋長」「イリニウェク酋長」「オセオーラ酋長」など）の姿やパフォーマンスが、実際のインディアン文化とはかけ離れたステレオタイプに基づいています。白人学生が演じるキャラクターが、本来の習慣にない扮装や踊り、儀式を模倣することは、インディアンの怒りを買っています。こうしたイメージは、19世紀にアメリカ軍によって破壊された文化を理解しようとしない白人社会が生んだステレオタイプだと指摘されています。
- 応援行動: 試合中の観客による「インディアン風」の顔ペイント、羽根飾り、デタラメな太鼓演奏、そしてトマホーク型の応援グッズを振り回す「トマホーク・チョップ」といった行為も、民族を侮辱するものであると批判されています。

反「インディアン・マスコット」運動家たちは、これらの行為や名称の使用自体が、インディアン民族に対する組織的な人種差別であると訴えています。

廃絶を求める運動

「インディアン・マスコット」への抗議は、1960年代に高揚したインディアンの権利回復運動「レッド・パワー」と共に本格化しました。「アメリカインディアン国民会議（NCAI）」が初期からこの問題を取り上げ、メディアにおける否定的イメージの排除と併せてマスコットの廃止を要求しました。この動きは「全米インディアン若者会議（NIYC）」や「アメリカインディアン運動（AIM）」などの団体に引き継がれ、現在も抗議が続けられています。

具体的な運動として、以下のような事例があります。

- 1972年、AIMのラッセル・ミーンズらがクリーブランド・インディアンスに対し、チーム名変更とマスコット廃止を求めて大規模な抗議デモや訴訟を行いましたが、ファンからの強い反発に遭いました。
- 1992年、コロンブス上陸500周年に合わせ、AIMのヴァーノン・ベルコートらが「スポーツとメディアの人種差別に関する全国会議（NCRSM）」を結成し、主要プロチームへの激しい抗議を展開しました。
- 同年、スーザン・S・ハルジョらインディアンの原告団がワシントン・レッドスキンズに対し、チーム名とロゴの廃棄を求めて米国特許商標庁に訴訟を起こしました。特許商標庁は原告側に有利な判断を示しましたが、連邦最高裁判所はインディアン側敗訴の判決を下しました。この訴訟は現在も若い世代に引き継がれています。
- 1994年には、クリーブランド・インディアンスの新球場完成に際し、ヴァーノン・ベルコートらが抗議デモを行い逮捕される事件もありました。

こうした運動の結果、多くの高校や大学でインディアンに関連するチーム名やマスコットの廃止が実現しています。

継続する論争と複雑な背景

多方面からの批判にもかかわらず、「インディアン・マスコット」の使用が多くのプロ・アマチュアチームで継続されている背景には、いくつかの要因があります。

- 経済効果: マスコットやチームロゴを使用したグッズ販売による経済効果は大きく、これがチーム運営を継続させる理由の一つとなっています。
- ファンの支持: マスコットは長年ファンに親しまれており、変更に対する強い抵抗や反発があります。チーム側はファンに向けて「インディアン文化への敬意を表している」「栄誉を与えるものだ」と主張することが多いです。
- インディアン内部の意見の相違: インディアン民族の間でも、この問題に対する意見は完全に一致していません。一部にはマスコット使用を容認する部族や個人もおり、全米における地元のインディアン部族の対応は多様です。これは問題解決をさらに複雑にしています。

NCAAの対応と各大学の状況

全米の大学スポーツを統括する「全米大学体育協会（NCAA）」も、この問題に独自の調査で対応しました。ある研究で「インディアン・マスコットのイメージはアメリカインディアンの学生の自尊心を損なう」という結果が出たことを受け、2005年8月、NCAAは一部のチーム名やマスコットを「文化的に敵対的」かつ「虐待的」であると裁定し、傘下チームでの使用を原則禁止すると決定しました。

このNCAAの決定を受けて、多くの大学がチーム名やデザインを変更しましたが、全てが統一されたわけではありません。NCAAの禁止措置にも一貫性が見られないという批判もあります。

- フロリダ州立大学: NCAAからチーム名の「セミノール族」とマスコット「オセオーラ酋長」の使用禁止を求められましたが、当該部族であるフロリダ・セミノール族が大学による使用を公式に支持したことを理由に、使用を継続しています。しかし、歴史的にフロリダから強制移住させられたオクラホマ・セミノール族など、他の多くのインディアンからは依然として批判を受けています。白人学生が演じるオセオーラ酋長のパフォーマンスは、多くのインディアン文化と無関係なステレオタイプに基づくものであり、論争の的となっています。
- イリノイ大学: 「Fighting Illini（戦うイリニ族）」というチーム名が問題視されましたが、大学側は名称の由来を巡る解釈で対抗しました。マスコットの「イリニウェク酋長」は白人学生が演じており、強い抗議を受けながらも存続していますが、他の大学の構内試合には同行できないなど、活動範囲は制限されています。
- ノースダコタ大学: 「Fighting Sioux（戦うスー族）」が禁止対象となり、ロゴから「Sioux」を削除しましたが、スー族の抗議は続いています。
- オクラホマ大学: 「Sooners」（インディアンの土地を不法占拠した白人）や、インディアンを指す言葉に由来する「Oklahoma」といったチーム名がNCAAに使用許可される一方で、セミノール族が承認した「セミノール」が一度は禁止されるなど、NCAAの判断基準に対する疑問も呈されています。

結論

「インディアン・マスコット」を巡る問題は、単なるスポーツのエンターテイメントに留まらず、歴史的な差別、文化の盗用と歪曲、経済的利益、そしてインディアン民族内部の複雑な現状が絡み合った根深い問題です。抗議運動は多くの変化をもたらしましたが、ファンの支持や経済的理由、そして抗議側と擁護側の間の認識の隔たりにより、論争は現在も続いています。この状況を「インディアン戦争」の継続であると捉えるインディアン識者もおり、その解決にはまだ時間を要すると見通しです。

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