インディード!

ジャズ史にその名を刻む偉大なトランペット奏者、リー・モーガンの輝かしいキャリアは、1956年に録音され、翌1957年にブルーノート・レコードから発表されたアルバム『インディード!』（Indeed!）をもって公式に幕を開けました。当時弱冠18歳であったモーガンにとって、これは初の自身の名を冠したスタジオ・リーダー作品であり、その後の躍進を予感させる瑞々しい才能が記録された記念碑的な一枚です。

制作背景

1956年は、若きリー・モーガンにとってまさに飛躍の年でした。同じフィラデルフィア出身のサクソフォーン奏者であり作曲家でもあるベニー・ゴルソンの強力な推薦を得て、モーガンはジャズ界のレジェンド、ディジー・ガレスピーが率いる世界的に有名なオーケストラの正式メンバーに抜擢されます。ガレスピー楽団での活動を通じて、モーガンはその卓越したテクニックと若さあふれる感性で、瞬く間にニューヨークのジャズ・シーンで熱い注目を集める存在となりました。本作『インディード!』は、そうした期待が高まる中で、1956年 11月4日に名門ブルーノート・レーベルで録音されました。さらに驚くべきことに、このアルバムのセッションを終えたまさにその翌日、11月5日には、彼はサヴォイ・レコードでの次作『イントロデューシング・リー・モーガン』の録音を開始しています。この短期間での連続したレコーディングは、当時のリー・モーガンの勢いと、ジャズ界が彼に寄せる期待の大きさを雄弁に物語っています。

音楽性と参加ミュージシャン

本作の録音には、リー・モーガンのトランペットを中心に、当時のハード・バップ・シーンを支えていた屈指のプレイヤーたちが集結しました。アルト・サクソフォーンにはクラレンス・シャープ、ピアノにはハード・バップの重要人物であるホレス・シルヴァー、ベースはウィルバー・ウェア、そしてドラムスには「フィリー」・ジョー・ジョーンズが名を連ねています。特にホレス・シルヴァーの参加は、アルバム全体のサウンドに深く関わっており、彼の作曲による楽曲「ロッカス」も収録されています。この「ロッカス」は、元々1952年にルー・ドナルドソン・カルテット（当時シルヴァーも参加）のために書かれ、既に録音されていたナンバーであり、本作におけるハード・バップとの繋がりを示す一例と言えます。アルバム全体としては、若々しいモーガンのストレートで力強いトランペットを、経験豊かな共演者たちが盤石のアンサンブルで支える形で展開されます。タイトなリズムセクションの上で、モーガンとシャープが切れ味鋭いソロを聴かせます。

評価

本作はリー・モーガンの初期作品であるため、後年の代表作と比較されることもあります。音楽レビューサイトAll About Jazzにて2015年にマーク・デイヴィスが発表したレビューでは、5点満点中3点という評価が与えられました。デイヴィスは参加ミュージシャンたちの実力を「偉大」と称賛しつつも、音楽の内容自体については「ごく普通」であるとの見解を示し、その理由としてリーダーの若さを挙げています。しかし、彼は同時にこのアルバムを「良いレコード」であると認め、「私のようなハード・バップのファンであれば気に入ることだろう」と述べています。これは、本作がモーガンのキャリア初期の記録として、その後の音楽的な成熟とは異なる魅力や位置づけを持つことを示唆しつつ、当時のハード・バップというジャンルを愛好するリスナーにとっては十分に価値のある作品であるという見方を示しています。

収録曲

本作に収録された楽曲は以下の通りです。（作曲者、演奏時間）

ロッカス - "Roccus" (Horace Silver) - 8:18
レジー・オブ・チェスター - "Reggie of Chester" (Benny Golson) - 4:55
ザ・レディ - "The Lady" (Owen E. Marshall) - 6:47
リトルT - "Little T" (Donald Byrd) - 8:23
ガザ・ストリップ - "Gaza Strip" (O. E. Marshall) - 3:56
スタンド・バイ - "Stand By" (B. Golson) - 5:51

※2007年リマスターCDには、ボーナス・トラックとして「リトルT（別テイク）」(Donald Byrd) - 8:07 が追加収録されています。

参加ミュージシャン

リー・モーガン - トランペット
クラレンス・シャープ - アルト・サクソフォーン
ホレス・シルヴァー - ピアノ
ウィルバー・ウェア - ベース
* フィリー・ジョー・ジョーンズ - ドラムス

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