インデックス・ケース

インデックス・ケースとは

疫学において、インデックス・ケース（index case）とは、ある集団内で最初に病気を発症した人物を指す言葉です。プライマリー・ケース（primary case）やペイシェント・ゼロ（patient zero）もほぼ同じ意味で使われます。日本語では「初発症例」「発端症例」などと訳されます。

インデックス・ケースは、病気の発生源や伝播経路、アウトブレイクにおける感染源の特定に重要な手がかりを与えてくれます。また、感染症の初期段階における感染者であり、第1、第2、第3...と感染の連鎖を追う上でも重要な役割を果たします。

インデックス・ケースの概念が使われる分野

インデックス・ケースという言葉は、疫学以外にも様々な分野で用いられます。

遺伝学: 家族内で遺伝性疾患の原因となる遺伝要因を特定するきっかけとなった最初の発症者（発端者）を指します。
歴史上の人物: 前頭葉を損傷しながらも生還したフィニアス・ゲージのように、文献上で「古典的な」位置づけを持つ人物を指す場合もあります。

プライマリー・ケース

「プライマリー・ケース」は、主にヒトからヒトへ感染する感染症において、集団内に最初に病気を持ち込んだ人物を指します。

ペイシェント・ゼロ

「ペイシェント・ゼロ」という言葉は、当初、北米におけるHIV感染のインデックス・ケースと考えられた人物に対して使われました。日本語では「ゼロ号患者」とも訳されます。現在では、医療分野に限らず、コンピュータネットワークで初めてマルウェアに感染した人など、広範囲に影響を及ぼす何か悪いものの最初の感染者を指す言葉として使われることがあります。

インデックス・ケースの意義

インデックス・ケースの特定は、感染症の発生源や伝播状況、感染経路を明らかにする上で非常に重要です。感染源の特定は、アウトブレイクの抑制や予防策を講じる上で不可欠な情報となります。

しかし、インデックス・ケースの特定に常にこだわる必要はないという意見もあります。感染症疫学者のデイヴィッド・ヘイマンは、「ペイシェント・ゼロを見つけることが重要な場合もあるが、それは患者がまだ生きていて病気を蔓延させている時に限る」と述べています。特に大規模なアウトブレイクの場合、初期の感染者を特定するよりも、感染拡大の抑制に注力する方が重要となる場合も多いのです。

ペイシェント・ゼロとされたガエタン・デュガ

1980年代初頭のAIDS流行において、ガエタン・デュガというカナダ人男性が「ペイシェント・ゼロ」とされました。CDCの研究チームは、デュガがヨーロッパから米国へHIVを持ち込み、複数の男性に感染を広げたと発表しました。

この研究結果は、ジャーナリストのランディ・シルツによって書籍化され、映画化もされました。しかし、その後の研究により、デュガはHIV感染を広げた最初の人物ではなく、単なる感染者の一人に過ぎなかったことが明らかになっています。彼は「マス・スプレッダー」として中傷されましたが、遺伝子解析の結果、北米で流行しているHIVのルーツは1969年頃にアフリカからハイチを経由して米国に入ったもので、デュガはその後の感染者の一人に過ぎなかったのです。

著名なインデックス・ケース

1854年 ロンドンのコレラ流行: ブロード・ストリート40番地の乳児がインデックス・ケースと考えられています。
チフスのメアリー: 1900年代初頭のニューヨークで腸チフスを広めたとされるメアリー・マローンは、無症候性キャリアであり、料理人として働きながら多くの人に感染を広げました。彼女はインデックス・ケースとして特定された後、死亡するまで強制隔離されました。
2003年 SARS: 広東省の医師が香港のホテルでアウトブレイクを引き起こしました。この医師がインデックス・ケースとなり、SARSが世界中に広まるきっかけを作りました。
2009年 新型インフルエンザ: エドゥガル・エンリケ・エルナンデスがペイシェント・ゼロと考えられていますが、公式な最初の死者はマリア・アデラ・グティエレスでした。
2014年 西アフリカ エボラ出血熱: 2歳の子供がインデックス・ケースになったと考えられています。

医療以外の分野での用例

「ペイシェント・ゼロ」という言葉は、コンピュータウイルス感染の最初の感染者や、インターネット上で嫌がらせを受けた最初の人物など、医療分野以外でも使われることがあります。モニカ・ルインスキーは、自身をインターネット上での嫌がらせの「ペイシェント・ゼロ」と表現しました。

フィクションにおけるインデックス・ケース

映画やゲームでもインデックス・ケースがテーマとして扱われています。

ゼロ・ペイシェンス: AIDSの「ペイシェント・ゼロ」の汚名を着せられた人物が、死者の国から戻ってくるというミュージカル映画です。
アウトブレイク: 感染症アウトブレイクのインデックス・ケースを探す物語が描かれています。
コンテイジョン: 致死性の高いウイルス感染のインデックス・ケースが描かれています。
Plague inc.: ゲーム内でプレイヤーは自作のウイルスについて情報を集めるため、ペイシェント・ゼロを探させることができます。
Prototype: 主人公が研究所で開発されたウイルスのペイシェント・ゼロとなります。

インデックス・ケースという概念は、感染症の理解と対策に不可欠なだけでなく、様々な分野においても重要な意味を持つことがわかります。

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