インドガン

インドガン

インドガン（学名：Anser indicus）は、カモ目カモ科マガン属に分類される鳥類の一種です。この鳥は、標高8,000メートルを超えるヒマラヤ山脈を越えるという驚異的な飛翔能力を持つことで世界的に知られています。この能力は、低酸素環境下でも活動できる特別な生理機能によるものと考えられています。

分布

インドガンは、ユーラシア大陸の中央部から南部にかけて広く分布しています。主な繁殖地は、バイカル湖の南側を含むモンゴル高原などです。繁殖期を終えた冬季には、温暖なインドなどの地域へ南下して越冬します。生息が確認されている国には、アフガニスタン、インド、ウズベキスタン、カザフスタン東部、キルギス、タジキスタン、中華人民共和国西部、ネパール、バングラデシュ、ブータン、モンゴル、そしてロシア南東部が含まれます。

日本国内においては、過去にいくつかの記録があります。例えば、1968年には千葉県、1972年には長崎県、1986年には小笠原での報告がありますが、これらの記録は、本来の自然分布による飛来ではなく、飼育されていた個体が逃げ出した、いわゆる「かごぬけ」の可能性が高いと考えられています。

学名の種小名「indicus」は「インドの」という意味を持ち、和名の「インドガン」と同じく、本種がインド方面で越冬することに由来しています。

形態

インドガンは中型のガンで、全長は約71から76センチメートルです。翼を広げた際の翼開長は140から160センチメートルに達します。翼長はオスが45から48.2センチメートル、メスが40.6から46センチメートルと、ややオスの方が大きくなる傾向があります。

特徴的なのは頭部の模様です。頭部の羽毛は白色をしており、目の後ろから耳を覆う部分を経て後頭部にかけて、くっきりと二本の黒い帯状の筋模様が入ります。首の羽毛は黒く、その側面には白い縦の縞模様が見られます。体の上面は淡い青灰色で、個々の羽の縁（羽縁）が白くなっているため、うろこ状の模様のように見えます。胸から体側面にかけては灰色ですが、体の後方に行くにつれて色が濃くなり、黒みがかってきます。腹部や尾羽の付け根を覆う上下の羽毛（上尾筒、下尾筒）は白色です。尾羽自体は黒色ですが、先端部分と外側の尾羽は白色です。

嘴と後肢は鮮やかな黄色や橙色をしており、白い頭部や黒い首とのコントラストが美しい姿をしています。

生態

インドガンは、河川や湖沼、湿地、そして農耕地といった、水辺や開けた環境に生息しています。日中は、川岸や湖畔の土手などで休んでいることが多く、主に夕方になると活発に活動を開始します。

非繁殖期には、しばしば数百羽から数千羽に及ぶ大規模な群れを形成して行動します。これは、外敵から身を守るためや、餌の探索を効率的に行うためと考えられています。

食性は主に植物食で、草の葉や茎、植物の種子などを採食します。農耕地では、穀物の落穂などを食べることもあります。

繁殖形態は卵生です。繁殖期は通常4月から5月にかけてで、メスは一度に平均して4個の卵を産みます。卵を温める抱卵期間は28日から30日ほど続きます。

人間との関わり

インドガンの越冬地の一部では、伝統的に狩猟の対象となることがあります。その独特の生態や姿は、人々に様々な形で認識されており、中島みゆき氏の楽曲「India Goose」のように、創作のモチーフとなることもあります。

（関連事項：マガン属）

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