インドシナ難民

インドシナ難民とは

1975年、ベトナム、ラオス、カンボジアのインドシナ三国が社会主義体制に移行したことがきっかけとなり、多くの人々が難民となりました。経済活動の制限や社会主義体制下での迫害を恐れた人々、また新たな体制に馴染めない人々が、国外への脱出を決意しました。

難民発生の背景

インドシナ難民の流出は1970年代後半から1980年代にかけて顕著になり、特にボートピープルとして海を渡り海外へ脱出した人々は国際的な注目を集めました。難民の総数は約144万人に達し、そのうち約130万人がアジア各地の難民キャンプを経て、アメリカ、オーストラリア、カナダ、フランス、日本などの第三国に定住しました。

1979年には難民流出がピークを迎え、同年からベトナム政府と国連難民高等弁務官事務所（UNHCR）との間で「合法出国に関する了解覚書」が締結され、合法出国計画（ODP）が開始されました。これにより、人道的理由や家族再会を目的としたベトナムからの合法的な出国が認められるようになりました。しかし、依然として多くの人々が危険を冒してボートで脱出し、ボートピープルと呼ばれるようになりました。

中国系住民の大量流出

難民の多くは中国系住民であり、1979年前後には社会主義化による資産制限や国有化、さらに中越戦争による民族的な緊張から、都市部で商業を営んでいた華人が大量に国外へ脱出しました。1975年以前には南北ベトナムに約145万人の華人が居住していましたが、そのうち約26万人が中国に帰国、約111万人がアメリカやカナダなどへ移住し、ベトナム国内の華人人口は1987年には約28.5万人にまで減少しました。特にホーチミン市（旧サイゴン）のチョロン地区では、1975年に70万人いた華人人口が1978年には10万人に激減しました。

当時の香港やマカオの難民収容所では、収容者の7割が中国系ベトナム人でした。1978年には、オーストラリアのマッケラー移民相がベトナム当局が社会事業の一環として国内の華僑人口を減らすために難民の大量流出を助長していると非難しました。オーストラリアは1975年から1985年の間に9万人以上のベトナム難民を受け入れましたが、1986年のオーストラリア在住の華僑・華人人口約20万人のうち、ベトナム出身の華僑・華人は最多の39%（約8万人）を占めていました。

南ベトナム政府関係者への再教育

ベトナムでは、約10万人の南ベトナム政府関係者や軍関係者が再教育キャンプに送られました。彼らは階級や地位に応じて数週間から数年をキャンプで過ごしました。1992年には、10万人のうち約9万4000人が釈放され社会復帰しましたが、残る約6000人はまだ収容されていました。米越間協議により、3年以上収容されていた約4万5000人については、本人の希望があればアメリカが家族と共に受け入れることになりました。

各国の難民受け入れ状況

各国が受け入れたインドシナ難民の数は以下の通りです。

アメリカ：約82万3000人
オーストラリアとカナダ：各約13万7000人
フランス：約9万6000人
ドイツとイギリス：各約1万9000人
日本：約1万1319人
イスラエル：約400人

アメリカには、多くの亡命ベトナム人のコミュニティや中国系ベトナム人のチャイナタウンが存在しています。1970年代後半以降、第三国へ移住したインドシナ系中国人の増加に伴い、フランスやオーストラリア、カナダ、アメリカなどでは大規模なチャイナタウンが形成されました。ニューヨークやロサンゼルス、シカゴ、パリ、シドニー郊外などに見られる大規模なチャイナタウンは、インドシナ難民によって形成されたものです。

年表

1975年4月：カンボジアでポル・ポト政権が樹立
1975年5月：日本に初めてのボートピープルが上陸
1975年12月：ラオス人民民主共和国成立
1976年1月：民主カンボジア成立、大量の難民が発生
1976年7月：ベトナム社会主義共和国成立
1979年1月：ポル・ポト政権崩壊、カンプチア人民共和国が成立
1979年2月：中越戦争勃発により大量の難民が発生
1979年7月：インドシナ難民問題国際会議が開催
1981年6月：日本が難民条約へ加入

日本の受け入れ対応

日本政府は1979年、インドシナ難民の定住促進のため、財団法人アジア福祉教育財団に具体的な業務を委託しました。同財団は難民事業本部を設置し、姫路定住促進センター（兵庫県姫路市）と大和定住促進センター（神奈川県大和市）を運営しました。これらのセンターでは、日本語教育、社会生活適応指導、職業斡旋、定住後のアフターケアなどの支援を実施し、多くの難民の自立を支えました。

姫路定住促進センター：1979年12月 - 1996年3月
大和定住促進センター：1980年2月 - 1998年3月

大和定住促進センターでは、2,090人が日本語教育を利用し、1,045人が就職しました。

関連情報

ベトナム戦争
カンボジア内戦
ボートピープル
マレーシアとベトナムの関係
Category:越僑
在日ベトナム人

外部リンク

難民問題と日本 III −国内における難民の受け入れ− 外務省
難民事業本部 沿革
インドシナ難民に関する国際社会の動き（年表）


この文章は、インドシナ難民問題に関する概要をまとめたものです。難民問題は複雑であり、多くの人々の人生に深い影響を与えたことを理解していただければ幸いです。

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