インフィデル

ボブ・ディラン『インフィデル』：未完成の傑作と、その魅力

1983年、ボブ・ディランは彼のキャリアにおいて22作目となるスタジオ・アルバム『インフィデル(Infidels)』を発表しました。このアルバムは、アメリカではビルボード200チャートで最高20位、イギリスでは全英アルバム・チャートで9位を記録し、アメリカレコード協会(RIAA)よりゴールド・ディスクに認定される商業的成功を収めました。しかし、その背景には、興味深い制作過程が隠されています。

当初、このアルバムのプロデュースは、ダイアー・ストレイツのギタリストとして知られるマーク・ノップラーが担当していました。しかし、レコーディングが予想以上に長期化し、ノップラーが自身のバンドのツアーに参加する必要に迫られたため、作業は中断。その後、ディラン自身が残されたレコーディングテープを完成させました。ノップラーは後に、自身の手で完成させていれば、もっと優れたものになっただろうとコメントしたと伝えられています。このエピソードは、アルバムに独特の雰囲気を与えているのかもしれません。

『インフィデル』には、ディランのソングライティングの幅広さが反映されています。全9曲をディラン自身が作詞作曲したこのアルバムは、彼の音楽的探求を如実に示す、バラエティに富んだ楽曲群で構成されています。

Side 1では、力強い「ジョーカーマン」、映画『君のような素敵な娘がこんなところで何してるの?』からの引用を含む「スウィートハート・ライク・ユー」、そして「ネイバーフッド・ブリー」、「ライセンス・トゥ・キル」といった楽曲が収録されています。これらの曲は、ディランの音楽的冒険心と社会への鋭い視点を反映し、リスナーを魅了します。

Side 2は、より内省的な雰囲気を持つ楽曲が並びます。「マン・オブ・ピース」、「ユニオン・サンダウン」、「アイ・アンド・アイ」、「ドント・フォール・アパート・オン・ミー・トゥナイト」といった曲は、ディランの複雑な内面世界を深く掘り下げ、彼の音楽表現の深遠さを示しています。特に「ユニオン・サンダウン」では、クライディー・キングのバックボーカルが楽曲に彩りを添えています。

このアルバムのレコーディング・セッションでは、多くの楽曲が制作されましたが、アルバムには収録されなかったアウトテイクも存在します。日本盤シングル「スウィートハート」のB面に収録された「エンジェル・フライング・トゥー・クロース・トゥ・ザ・グラウンド」はその一例です。他にも、「サムワンズ・ゴッタ・ア・ホールド・オブ・マイ・ハート」（後に『エンパイア・バーレスク』に収録）、「テル・ミー」、「ロード・プロテクト・マイ・チャイルド」、「フット・オブ・プライド」、「ブラインド・ウィリー・マクテル」といった楽曲が、後に『ブートレッグ・シリーズ第1〜3集』に収録され、世に出ることとなります。これらの未発表曲の存在は、『インフィデル』というアルバムの奥深さをさらに際立たせています。

『インフィデル』に参加したミュージシャンは、ギター'>[ボブ・ディラン]]自身に加え、スライ・ダンバー(ドラムス、パーカッション)、ロビー・シェイクスピア(ベース)、ミック・テイラー]、[マーク・ノップラー]、アラン・クラーク(キーボード)といった豪華な顔ぶれが名を連ねています。彼ら一流ミュージシャンとのコラボレーションが、アルバムに独特の音楽的深みを与え、ディランの音楽世界をさらに豊かに彩っています。

『インフィデル』は、完璧とは言い難い制作過程を経て生まれた、しかしながら、ディランの音楽的探求の深さと、その独自の表現力を示す、重要なアルバムと言えるでしょう。完成度の高さだけでなく、その背景にある物語も魅力の一つであり、ディランの音楽史において重要な位置を占める作品として、これからも多くの人々を魅了し続けることでしょう。

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