エンパイア・バーレスク

ボブ・ディランによる23枚目のスタジオ・アルバム『エンパイア・バーレスク』(Empire Burlesque)は、1985年にリリースされ、世界中で注目を集めました。商業的な成功も収め、全英アルバム・チャートでは最高11位を記録するなど、ディランのキャリアにおいて重要な作品の一つとなりました。アメリカではビルボード200で33位を記録しています。

アルバムに収録されている楽曲は、それぞれに個性的な背景と魅力を持っています。特にシングルカットされた「タイト・コネクション」(Tight Connection to My Heart)は、そのプロモーションビデオが大きな話題を呼びました。監督はポール・シュレイダーが務め、1985年4月、ディランは極秘裏に来日。東京の六本木、赤坂、新宿で約一週間をかけて撮影が行われました。倍賞美津子、沢田研二、佐野元春、岩崎宏美といった日本の著名な俳優やミュージシャンたちが参加したと伝えられていますが、最終的に完成版に収録されたのは倍賞美津子のみでした。ディラン自身とシュレイダーも、このビデオの出来には満足しなかったようです。

もう一つのシングル「エモーショナリィ・ユアーズ」(Emotionally Yours)と「フォーリング・フロム・ザ・スカイ」(When the Night Comes Falling from the Sky)のカップリングは、ユーリズミックスのデイヴ・ステュアートがプロモーションビデオの監督を務めました。

アルバム収録楽曲の中には、興味深いエピソードを持つものもあります。「クリーン・カット・キッド」(Clean Cut Kid)は、『インフィデル』制作中に書かれた曲です。ディランの娘が当時人気急上昇中だったニューロマンティック系バンド、ザ・サイケデリック・ファーズを気に入り、それを知ったディランが同バンドのために書き下ろしました。しかし、ベトナム戦争を批判する歌詞を含むこのスワンプ調の楽曲は、耽美的なイメージの強いザ・サイケデリック・ファーズの音楽性には合わず、結局彼らのレパートリーには入りませんでした。

「ダーク・アイズ」(Dark Eyes)は、ディランがニューヨークのプラザホテルに滞在中に、ホテルの部屋からセントラルパークを見下ろしながら、そこで見かけた娼婦をモデルに書き上げた曲です。ミキシングを担当したアーサー・ベイカーの提案により、アコースティックギターのみのシンプルな伴奏で録音されました。

『エンパイア・バーレスク』には、このようにそれぞれの楽曲に込められた物語や制作秘話があり、ディランの音楽的探求と多様な才能が詰まった作品となっています。参加ミュージシャンも豪華で、Josh Abbey、Peggie Blu、Debra Byrd、マイク・キャンベル、Chops、Alan Clark、Carolyn Dennis、スライ・ダンバー、ボブ・ディラン自身、アーサー・ベイカー、Howie Epstein、アントン・フィグ、Bob Glaub、Don Heffington、Ira Ingber、Bashiri Johnson、ジム・ケルトナー、Stuart Kimball、アル・クーパー、Queen Esther Marrow、Sid McGinnis、Vince Melamed、John Paris、Ted Perlman、Madelyn Quebec、Richard Scher、ロビー・シェイクスピア、ミック・テイラー、ベルモント・テンチ、Urban Blight Horns、David Watson、ロン・ウッドなど、多くの実力派ミュージシャンが名を連ねています。

アルバムのリリースは日本でも行われ、多くのファンを魅了しました。現在でも、『エンパイア・バーレスク』は、ボブ・ディランの代表作の一つとして高く評価されています。その音楽性、楽曲の背景、そして参加ミュージシャンの豪華さなど、様々な魅力が詰まったアルバムと言えるでしょう。

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