イン・ア・サイレント・ウェイ

イン・ア・サイレント・ウェイ：ジャズとエレクトリックの融合、フュージョンの誕生

『イン・ア・サイレント・ウェイ』（In A Silent Way）は、1969年にトランペット奏者マイルス・デイヴィスによって発表されたアルバムです。本作は、ジャズにエレクトリック楽器を大胆に導入し、フュージョンという新しい音楽ジャンルの先駆けとなりました。

アコースティック・ジャズからの脱却

1967年の『ネフェルティティ』を最後に、マイルスは従来のアコースティック・ジャズからの脱却を模索し始めます。1968年の『マイルス・イン・ザ・スカイ』では実験的にエレクトリック楽器を導入し、その方向性を探りました。そして、『キリマンジャロの娘』（1969年）から参加したチック・コリアとデイヴ・ホランドに加え、本作で初共演となるジョン・マクラフリンとジョー・ザヴィヌルを迎え、より本格的にエレクトリック・ジャズ路線を推し進めました。

フュージョン・シーンを担う才能の結集

本作には、後にウェザー・リポートを結成するウェイン・ショーターとジョー・ザヴィヌル、リターン・トゥ・フォーエヴァーを結成するチック・コリア、マハヴィシュヌ・オーケストラを結成するジョン・マクラフリンといった、1970年代のフュージョン・シーンを牽引するキーパーソンたちが集結しました。彼らの才能が交錯し、革新的なサウンドが生み出されたのです。

楽曲構成と即興演奏

レコードA面を占める「シュー/ピースフル」は、ハイハットによる16ビートの反復と、Dのコードのみで演奏されるベースラインに乗せて、各メンバーが即興演奏を繰り広げる楽曲です。B面は、ジョー・ザヴィヌル作曲の静謐な「イン・ア・サイレント・ウェイ」と、マイルス作曲の「イッツ・アバウト・ザット・タイム」のメドレーで構成されています。

本作の特徴として、生の即興演奏をプロデューサーのテオ・マセロが編集した点が挙げられます。2001年に発売されたボックス・セット『ザ・コンプリート・イン・ア・サイレント・ウェイ・セッションズ』では、編集前のオリジナル・バージョンが初めて公開され、より生々しい演奏を聴くことができます。

時代を彩った共演

同時期には、ローラ・ニーロのアルバム『ニューヨーク・テンダベリー』がコロンビアのスタジオで録音されており、後にマイルスとニーロは同じフィルモア・イーストのステージに立つことになります。また、本作はトニー・ウィリアムスが在籍していた時期の最後のアルバムでもあります。

収録曲

1. シュー/ピースフル - Shhh/Peaceful (18:16)
A) Shhh （マイルス・デイヴィス）(6:14)
B) Peaceful （マイルス・デイヴィス）(5:42)
C) Shhh （マイルス・デイヴィス）(6:20)
2. イン・ア・サイレント・ウェイ/イッツ・アバウト・ザット・タイム - In A Silent Way/It's About That Time (19:51)
A) In A Silent Way （ジョー・ザヴィヌル）(4:10)
B) It's About That Time （マイルス・デイヴィス）(11:27)
C) In A Silent Way （ジョー・ザヴィヌル）(4:15)

演奏メンバー

マイルス・デイヴィス - トランペット
ウェイン・ショーター - ソプラノ・サックス
ハービー・ハンコック - エレクトリックピアノ
チック・コリア - エレクトリックピアノ
ジョー・ザヴィヌル - オルガン
ジョン・マクラフリン - エレクトリックギター
デイヴ・ホランド - ベース
トニー・ウィリアムス - ドラム

『イン・ア・サイレント・ウェイ』は、マイルス・デイヴィスの音楽キャリアにおける重要な転換点であり、フュージョンという新たな音楽の可能性を切り開いた金字塔として、今もなお多くの音楽ファンに愛され続けています。

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