イヴァン・ステファン

イヴァン・ステファン：短命に終わったブルガリア皇帝の生涯

イヴァン・ステファン（1300年/1301年 - 1373年?）は、第二次ブルガリア帝国の皇帝として、わずか1年という短い期間在位しました。彼の生涯は、当時のバルカン半島の複雑な政治情勢を反映しており、帝位を巡る争い、国外亡命、そして晩年の消息不明など、波乱に満ちたものでした。

生い立ちと出自

イヴァン・ステファンは、ブルガリア皇帝ミハイル3世シシュマンの子として生まれました。母アンナ・ネダはセルビア王ステファン・ウロシュ2世ミルティンの娘であり、母方からはアセン家、テルテル家の血筋を受け継いでいました。そのため、イヴァン・ステファンは第二次ブルガリア帝国で皇帝を輩出した全ての名家、アセン家、テルテル家、シシュマン家の血を引くという、非常に複雑な家系に属していました。

即位と短い治世

1330年、父ミハイル3世がヴェルブジュドの戦いでセルビア軍に敗北し戦死すると、イヴァン・ステファンは叔父であるセルビア王ステファン・ウロシュ3世の支援を受けてブルガリア皇帝に即位しました。しかし、彼の治世は長くは続きませんでした。セルビアの傀儡とみなされたイヴァン・ステファンは、ブルガリア国内の貴族たちの反発を招き、翌1331年にはタルノヴォの貴族によって廃位されてしまいます。

亡命生活

廃位後、イヴァン・ステファンは母アンナとともに叔父ベラウルの領地であるニシュに逃れました。その後、ドゥブロヴニクに移動しますが、イヴァン・アレクサンダルからの働きかけを受けたセルビア王ステファン・ウロシュ4世ドゥシャンによってドゥブロヴニクを追放されます。その後の消息は定かではありませんが、ナポリで最期を迎えたと考えられています。

ビザンツ帝国の侵入

イヴァン・ステファンの即位後、父ミハイル3世の後妻テオドラは子供たちを連れてタルノヴォを離れ、コンスタンティノープルの兄弟アンドロニコス3世を頼りました。アンドロニコス3世は、この政変を好機と見て、ブルガリアへの侵攻を決定します。甥たちの権利の保護を大義名分に掲げ、ビザンツ軍はブルガリアの支配下にあったトラキア地方に侵入し、アンヒアロスやメセンブリアなどの黒海沿岸部の都市を無血開城させました。

廃位後の足跡

イヴァン・ステファンは、叔父ベラウルら少数のブルガリア貴族に支持されていましたが、大多数の貴族は彼をセルビアの手先とみなし、敵対的な姿勢をとりました。ビザンツへの反抗に手間取る新皇帝への失望は、1331年3月にラクシン、フィリップら大貴族のクーデターを引き起こし、ロヴェチのデスポット、イヴァン・アレクサンダルが新たな皇帝に選出されました。

廃位されたイヴァン・ステファンは、母と兄弟を連れてベラウルの領地であるニシュに逃れ、同地に1年半留まりました。翌1332年にイヴァン・ステファンとアンナはドゥブロヴニクに移り、彼の兄弟のシシュマンはジョチ・ウルスとビザンツに支援を求めましたが、成果は得られませんでした。

ドゥブロヴニクに逃れて以降のイヴァン・ステファンの動向について、正確な情報を得ることは困難です。しかし、Europäische Stammtafelnの著者Detlev Schwennickeによれば、イヴァン・ステファンは母を伴って南イタリアに行き、ターラント公フィリッポ1世の非嫡出子と結婚しましたが、子をもうけることはできなかったとされています。また、1342年には、ビザンツから追われたヨハネス6世カンタクゼノスと行動を共にしていた時期もあったようです。それから20年後、イヴァン・ステファンはシエーナの牢獄に収監され、1373年にナポリで没したと考えられています。ただし、Schwennickeは、彼がナポリではなくSlobitsaで亡くなった可能性も指摘しています。

このように、イヴァン・ステファンの生涯は、帝位を巡る争い、国外亡命、そして晩年の消息不明など、数々の謎に包まれています。彼の短い治世と、その後の波乱に満ちた人生は、当時のブルガリアとバルカン半島の複雑な政治情勢を今に伝えるものとして、歴史の中に刻まれています。

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