イヴォンヌ・ロリオ＝メシアン

イヴォンヌ・ロリオ（Yvonne Loriod, 1924年1月20日 - 2010年5月17日）は、フランスの著名なピアニスト、音楽教師です。彼女は特に、20世紀の偉大な作曲家オリヴィエ・メシアンの主要な解釈者、協力者として、また後にその妻としても知られています。現代音楽の分野で国際的に高い評価を得て、数多くの録音を残しました。

幼い頃から非凡な才能を示し、ベートーヴェンのピアノ・ソナタ全曲を暗譜で演奏するなど、神童として将来を嘱望されました。パリ音楽院でダリユス・ミヨーらに師事し、1943年には音楽院の課題曲であったメシアン作曲の《ロンドー》で首席を獲得します。

この時期から、メシアンはロリオの卓越した演奏技巧に強い関心を抱くようになります。彼は自身のピアノ作品の初演者としてロリオを重要なパートナーに選び、特に2台ピアノのための代表作《アーメンの幻影》の初演ではメシアン自身が共演しました。1940年代に書かれたメシアンの全てのピアノ曲は、ロリオによって初演されています。彼女の驚異的な技術は、メシアンのピアノ書法そのものにも大きな影響を与えたと考えられています。ロリオの存在があったからこそ、メシアンのピアノ音楽は更なる表現の可能性を切り拓き、その後の彼の管弦楽曲や声楽曲における複雑なピアノパートにも、彼女の影響を見ることができます。

メシアンが1943年から1947年にかけて開いた音楽塾「レ・フレッシュ」では、ロリオも作曲や楽曲分析を学びました。この塾からはピエール・ブーレーズら多くの俊英が輩出され、ロリオもその中心メンバーの一人として活動しました。メシアンの最初の妻の死後、1961年にロリオはメシアンと結婚し、その創作、特に鳥の歌の採譜にも積極的に協力しました。メシアンとの間に子供はいませんでした。メシアン没後、彼女は「ロリオ＝メシアン」という二重姓を用いるようになりました。彼女の妹ジャンヌ・ロリオは著名なオンド・マルトノ奏者で、姉妹で現代音楽の演奏に貢献しました。

演奏家としては、メシアン作品をはじめ、シェーンベルク、バルトーク、ジョリヴェといった現代音楽のスペシャリストとして確固たる地位を築きました。しかし、彼女のレパートリーは広く、バッハ、モーツァルト、ショパン、ドビュッシー、ラヴェルといった幅広い時代の作品にも深い造詣を持っていました。晩年まで世界各地で演奏活動を続け、夫の遺作《四重奏と管弦楽のためのコンセール》の日本初演にも参加しました。特にメシアンの代表作《幼子イエスに注ぐ20の眼差し》は、異なる時期に3回も録音を残しており、これはこの曲集においてはロリオだけが成し遂げた偉業です。

卓越した音楽教師としても国際的に評価が高く、日本のピアニストでは木村かをり、藤井一興、桂(岡本)恵子らが彼女に師事しています。また、ラ・ロシェル国際現代音楽オリヴィエ・メシアン・コンクールの設立に関わるなど、教育や若手支援にも情熱を注ぎました。

晩年には体調不良で来日がキャンセルになることもありましたが、2010年5月17日に86歳で死去するまで、メシアン音楽の伝承と普及に尽力しました。

メシアン作品には鳥の名前「loriot」が登場することがありますが、これはフランス語で「ヒワ」を意味し、ロリオの名前とは綴りが異なります。メシアン自身は単なる偶然の一致だと述べていましたが、同音であることから、その真意については今後も探求されるかもしれません。

イヴォンヌ・ロリオは、オリヴィエ・メシアンという巨匠の創作と受容に深く関わり、その類稀な才能と献身をもって、20世紀音楽史に重要な足跡を残した演奏家、教師でした。

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