イヴォ・マレク

イヴォ・マレク（Ivo Malec）は、1925年3月30日にクロアチアのザグレブで生まれ、2019年8月14日にフランスでその生涯を閉じた、現代音楽および電子音響音楽を専門とする作曲家、指揮者、そして影響力のある音楽教育者でした。クロアチア出身ながら、その音楽活動の大部分とキャリアはフランスで展開されました。

マレクは故郷ザグレブでクラシック音楽の基礎をしっかりと学びました。しかし、彼の音楽の方向性を決定づけたのは、フランスの音響研究家であり作曲家であるピエール・シェフェールとの出会いです。マレク自身が「唯一無二の師」と仰いだシェフェールの指導のもと、彼は現代音楽、特に電子音響音楽の世界へと深く傾倒していきます。この出会い以降、彼の創作活動は大きく変貌を遂げました。

シェフェールの思想、特に「オブジェ・ソノール」（音響物）の概念から強い影響を受けたマレクは、音楽の根源的な要素である音そのものに深い関心を持つようになりました。彼は、音楽の書法や楽譜の表現方法の革新を探求し、音色、響きの肌合い（テクスチャー）、そして持続する音の粒子状の側面（グラン）といった音素材の探求に没頭しました。マレクの作品は、アコースティック楽器と電子音響素材を巧みに組み合わせ、器楽と声楽を予期せぬ、しばしば対照的な手法で融合させることを特徴とします。そのサウンドは、時に激しく、荒々しい側面を見せながらも、常に豊かな音楽性と生命力に満ちています。彼は、電子音響音楽のスタジオ作業で得られた作曲の着想やテクニックを、器楽編成による作品にも積極的に応用し、両者の境界を横断するような独自のスタイルを確立しました。

作曲活動と並行して、マレクは教育者としても大きな功績を残しました。1972年から1990年までの長きにわたり、彼はパリ国立高等音楽院の作曲科教授を務め、多くの才能ある若手作曲家を育成しました。彼の指導を受けた弟子たちは、現代音楽界の第一線で活躍しており、その中には、ドゥニ・デュフール、松本日之春、フランソワ・パリ、ジェラール・ペッソン、フレデリック・デュリユー、フィリップ・ルルー、フィリップ・ユレル、エディット・カナ=ド=シズィといった著名な名前が挙げられます。彼の教育は、単なる技術の伝達にとどまらず、音楽に対する深い洞察と探求心を学生たちに植え付けたと言われています。

マレクの音楽的貢献は高く評価されており、いくつかの権威ある賞を受賞しています。1992年には、フランスの音楽界における重要な栄誉の一つであるフランス音楽グランプリを受賞しました。さらに、2006年にはフランス共和国からレジオンドヌール勲章（シュヴァリエ位）を授与され、国家レベルでの功績が認められました。

彼の作品リストは多岐にわたり、初期の伝統的な器楽作品から、シェフェールとの出会い以降の電子音楽、そして器楽と電子音響の融合作品、大規模なオーケストラ作品、協奏曲、室内楽、声楽作品まで含んでいます。テープのための作品には《Mavena》や《Dahovi》があり、オーケストラ作品としては《Sigma》、《Vocatif》、《Exempla》など、協奏曲としてはコントラバスとオーケストラのための《Ottava bassa》、ヴァイオリン協奏曲《Ottava alta》、チェロ協奏曲《… Arc-en-cello》などが挙げられます。これらの作品を通して、マレクは音響そのものへの鋭敏な感覚と、それを自由自在に操る作曲技術をもって、現代音楽の可能性を広げ続けました。彼の遺した作品群は、今なお多くの音楽家や研究者に影響を与えています。

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