イーゴリ・グラーバリ

イーゴリ・エマヌイロヴィチ・グラーバリ

イーゴリ・エマヌイロヴィチ・グラーバリ（Igor Emmanuilovich Grabar、1871年3月25日 - 1960年5月16日）は、ロシア帝国およびソビエト連邦で活躍した画家、美術修復家です。その生涯は、美術誌『芸術世界』の同人としての活動から、社会主義リアリズムの旗手としての活躍まで、幅広い芸術的変遷を遂げました。グラーバリは、その多才さと、時代の変化に合わせた柔軟な作風で、ロシア美術史に重要な足跡を残しました。

生い立ちと教育

グラーバリは、1871年にブダペストでロシアの要人の息子として生まれました。1876年に家族とともにロシアへ帰国し、モスクワのギムナジウムで教育を受けました。その後、ペテルブルク大学に進学し、1893年に法学部を卒業しましたが、その後に美術への強い情熱を抱き、転身を決意しました。

1894年、グラーバリはペテルブルク帝国美術アカデミーに入学し、美術の基礎を学びました。1896年にはミュンヘン美術アカデミーに留学し、さらに研鑽を積みました。この留学経験は、彼の作風に大きな影響を与え、後の画業に繋がる重要な時期となりました。

画家としての活動

1902年、グラーバリは美術誌『芸術世界』展に作品を出品し始め、その作品は国内外で広く展示されるようになりました。ミュンヘンやパリをはじめ、1909年にはローマ万博にも出展するなど、国際的な評価も高めました。

初期のグラーバリの画風は、ユーゲントシュティール（アール・ヌーヴォー）の影響を受けていましたが、次第に印象派の影響も受け、独自のスタイルを確立しました。「菊」や「散らかった食卓」などの作品は、新印象派的な点描技法を取り入れた作風を示しています。彼の作品は、光の表現や色彩の豊かさが特徴で、自然や日常の風景を詩情豊かに描いています。

美術行政と修復活動

グラーバリは、画家としての活動に加えて、美術行政や修復の分野でも重要な役割を果たしました。1913年から1925年まで、トレチャコフ美術館の館長を務め、美術館の発展に尽力しました。また、1918年から1930年までモスクワ中央修復工房の監督を務め、美術品の保護と修復に貢献しました。

社会主義リアリズムへの転換

ソビエト時代に入ると、グラーバリは社会主義リアリズムの旗手として活躍しました。革命や社会主義をテーマにした作品を制作し、その功績を称えられました。1943年にはソ連科学アカデミーの正会員に選ばれ、1941年にはスターリン賞を受賞するなど、社会主義リアリズムの代表的な画家として認められました。1956年には、肖像画や歴史画の分野での功績が評価され、ソ連人民芸術家の称号を与えられました。

主要作品

犬を連れた婦人（1899年）
9月の雪（1903年）
2月の蒼穹（1904年）
白い冬（ミヤマガラスの雛）（1904年）
菊
明るい秋の夕暮れ（1923年）
直線状に並んだレーニン（1933年）
冬の陽気（1941年）

まとめ

イーゴリ・グラーバリは、ロシア美術史において、非常に重要な位置を占める画家です。ユーゲントシュティール、印象派、新印象派、そして社会主義リアリズムと、様々な画風を経験し、それぞれの時代に合わせた独自の表現を追求しました。画家としての才能に加え、美術館の運営や美術品の保護・修復にも貢献し、その多才な活動は後世に大きな影響を与えています。

外部リンク

* Igor Grabar at Olga's Gallery

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