イーゴリ・テレンチエフ

イーゴリ・ゲラシモヴィチ・テレンチエフの生涯

イーゴリ・ゲラシモヴィチ・テレンチエフ（1886年1月29日 - 1937年6月17日）は、20世紀初頭のロシア・アヴァンギャルド、特にロシア未来派を代表する多才な芸術家でした。詩人、作家、そして革新的な舞台監督として、当時の芸術界に大きな影響を与えました。

生い立ちと教育

1886年、テレンチエフはウクライナのパヴログラードで、軍人の父と退役軍人の娘である母の間に生まれました。幼少期をハリコフで過ごし、地元の高校を卒業後、ハリコフ大学の法学部に進学します。その後、モスクワ大学の法学部に転籍し、1914年に卒業しました。この頃から、彼は文学や芸術への関心を深めていきます。

未来派との出会いと活動

1916年、結婚を機にトビリシへ移住したテレンチエフは、1918年に未来派のグループ「41°」に参加します。このグループには、イリヤ・ズダネーヴィチやアレクセイ・クルチョーヌイフといった重要な未来派の芸術家たちがいました。テレンチエフはここで、詩作や演劇活動を通じて、前衛的な芸術表現を追求しました。1922年には家族との再会を試みるも、亡命に失敗し、一旦帰国せざるを得なくなりました。

レニングラードでの演劇活動

1923年、ペトログラード（後のレニングラード）に移住したテレンチエフは、カジミール・マレーヴィチ、ミハイル・マチューシン、パーヴェル・フィローノフといった芸術家たちと文化事業に取り組みました。1924年からは、アジテーションスタジオやクラースヌィ劇場で監督を務め、自ら劇作も行いました。彼の代表作の一つである『ジョン・リード』は、1924年に初演され、その革新的な演出が注目を集めました。また、彼はシュヴァロフスキー宮殿に実験的劇場を設立し、メイエルホリドの後継者と自称し、自らの劇『結び目』、オペラ『ジョン・リード』、ゴーゴリの『監察官』など、意欲的な作品を次々と発表しました。

活動の拡大と挫折

1928年、テレンチエフは出版会館劇場の劇団員を率いてモスクワで客演し、成功を収めます。アナトリー・ルナチャルスキーは劇場のモスクワ移転を提案しますが、実現には至りませんでした。その後、テレンチエフはウクライナへと活動の場を移し、オデッサやハリコフで演劇活動を展開しました。さらに、ドニエプロペトロフスクではゴーリキーのロシア演劇劇場で働き、ウクライナの青年劇場の創設にも尽力しました。

逮捕と処刑

1931年、テレンチエフはドニエプロペトロフスクで逮捕され、ソ連の刑法第58条の容疑で5年の刑を宣告されます。白海運河での強制労働を経て1934年に釈放されたものの、モスクワでの仕事探しは難航しました。映画『石の反乱』の撮影を試みるも完成せず、モスクワ＝ヴォルガ運河の建設現場で宣伝工作員として働くことになりました。しかし、1937年5月28日、再び逮捕され、6月17日にブティルスカヤ刑務所で処刑されました。彼の家族には、1941年に死亡したという虚偽の証明書が渡されました。

テレンチエフの芸術的遺産

テレンチエフの演劇作品は、伝統的な演劇の枠を超え、前衛的な実験精神に満ちていました。彼は言葉の持つ力を最大限に活用し、新しいコンテクストでの意味の創出を試みました。ドイツのスラヴ学者ヴォルフガング・カザックは、テレンチエフをロシア未来派の「弟分」と位置づけ、彼の作品に未来派の影響が強く見られると指摘しました。

主な劇場公演

『監察官』：ニコライ・ゴーゴリ作、レニングラード出版会館劇場、1927年
『ルナパルク』：オペレッタ、音楽：ニコライ・ストレリニコフ、モスクワオペレッタ劇場、1928年

主要な著作

『クルチョーヌイフ　グランディオザール』トビリシ、1919年
『熾天使たちが笛を吹く』トビリシ、1919年
『17のばかげた道具』トビリシ、1919年
『事実』トビリシ、1919年
『優しさの記録 イリヤ・ズダネーヴィチの生涯』トビリシ、1919年
『完全な不作法に関する論文』トビリシ、1920年
* 『ジョン・リード　四幕の劇』モスクワ、レニングラード、1927年

イーゴリ・テレンチエフは、その短い生涯の中で、ロシア・アヴァンギャルドの最前線で活動し、演劇と文学の両分野に大きな足跡を残しました。彼の作品は、今日でもその革新性と実験精神において、多くの人々に影響を与え続けています。

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